緊急版愛の十五分劇場 『相川健太郎の場合』



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投稿者: 柏木耕一(旧・日光) @ p12-dn01kuki.saitama.ocn.ne.jp on 97/10/09 19:05:40

 ぷらぷらと右手をふらつかせて、京介は『間抜けヅラの神髄ここにありッ』てな表情で立ち尽くしている。悠子ちゃん(やっぱりちゃん付けした方がいいという結論に至った)は差し出されたその手をじぃっと見つめ、これまた間抜けに立ち尽くしていた。
 ……気まずい沈黙が流れる。いい加減下の階からはざわめきが消え、代わりに教師の声がかすかに流れてくる。もう完全に遅刻だ……次の授業は英語演習、嫌味ったらしいババアの受け持ちだ。一回欠課になるのは痛いが、こんな愉快な見せ物が観賞できるのなら大して悲しくはない。
「……えっと……」
 頬に汗を一筋伝わらせ、京介はゆっくりと唇の周りの筋肉を動かした。
「……握手、したいなーなんて……思ったりしちゃったりなんかしちゃったりしたんだけど……」
「意味の通らん日本語だなあ」
「っさいな。……えーっとね、できればこー、ぎゅって握り返してくれると嬉しいなー、なんて……」
 あくまで好青年のスタイルを崩さず、しかし何処か馬鹿みたいな言葉を吐く京介の手を、悠子ちゃんは両手でそっと包み込んだ。
 京介は、まさかこう来るとは思ってもいなかったのか、しばらく惚けたような顔をしていたが−−すぐに満面の笑みを浮かべて、「これからもよろしくね」と言った。

 ずきん。

 その瞬間、胸が、痛んだ−−理由はわからない。でも、針の刺すような痛みは、二人を見ている間中ずっと、ちくりちくりと俺を苛んだ。

 続く

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