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投稿者:
イド・ダイスケ(だい) @ kuki4DU30.stm.mesh.ad.jp on 97/9/27 22:44:51
叫び声をあげる。
人目もはばからずに。
そんな事を考えながら、街を歩いている。
気が立っているのが自分でも分かった。しかし、憤りではない。内へ、暗へ、転がるようにして大きくなって行く、自分の心。
とにかく、目に入るものすべてが気に入らない。なにもかも、悪く受け取ってしまう。すれ違う人間に苛つき、太陽の見えない黒い空が嫌でたまらない。薄汚れた街にウンザリする。
そんな自分が嫌いになる。
適当な喫茶店に入り、コーヒーを注文する。一番奥の席に腰を下ろして、なんとなく、テーブルの上で組んだ手を眺めている。と、まもなく運ばれてきたコーヒーを、手元に引き寄せて、砂糖を二つ放り込む。
小さなスプーンでかき混ぜ、ふとコーヒーの水面を見ると、自分の顔が写っていた。
琥珀色の鏡の中の顔は、怒っているように見える。鏡の中の自分はいつも怒っている。なぜ、いつもこんな顔をしているのだろう?
一口啜ったコーヒーの妙な苦みに、思わず舌打ちしそうになるが、どうにか堪えた。カップの中の自分は、ますます顔をしかめている。
──相変わらず、不機嫌な様子ね──
背後から、突然掛けられた声に、目だけをゆっくりと動かす。
──それとも、それが地?──
ニヤニヤと笑いながら、目の前の席に座る。相変わらず図々しい女だ。
──あなたって、いつも怒ってるみたい。そういうのって精神衛生上よくないんじゃない?──
ああそうですか。
──人の忠告は素直に聞いたほうがいいと思うなぁ……。あっ!ミルクティーと、チーズケーキ2つね♪──
2つ?
──あたしが2つ食べるのよ。ここのケーキと紅茶は結構いけるのよね♪ コーヒーはちょっとあれだけど──
女は、いたずらっぽく舌を出し、後半は小声で囁くように言ってから、声を出して笑う。若いウェイトレスが注文を確認し、席を離れると、女はこちらを向いて肩を竦める。
カップに口を付けていたが、中の液体を飲む気には、もはやなれなかった。
表情が、さらに歪むのが、自分でもわかった。
少々、乱暴にカップをテーブルへ戻す。カップは思ったより派手な音を立てるが、琥珀色した中の液体はこぼれなかった。
──あははっ、そんな露骨に不機嫌にならなくてもいいじゃない。人の好みなんてそれこそ千差万別よ。ここのコーヒーが、何よりも好きって人がいいんじゃない?──
それは、人の事をゲテモノ食いと言いたいのかい?
──何言ってんのよ。って、まさかほんとにそうなんじゃないでしょうね!!── 身を乗り出し、尋ねる彼女に対し、肩をすくめながら首を横に振ってみせる。
──なんだ。よかった──
そんな事を言ったら、この店に失礼ではないか。店員が聞いたら、気を悪くするのは間違いない。
──でも、このお店って、それ以外はそこそこいけるんだよ。紅茶とかケーキとかね。
なかでもチーズケーキはお勧めだね♪ さっきあたしが頼んだのを、少し分けてあげようか?──
少しねぇ。二つも頼んだくせに……。
──いらないの?──
ああ、結構だ。
それにしても、不思議な女だと思う。
今の自分は、苦笑を浮かべている。
さっきまでの、ぎすぎすした自分の心が、角砂糖が溶けるように、崩れてなくなっていく。そう、テーブルの上にあるコーヒーの中のように。
琥珀色した鏡の中の自分は、もう怒ってはいない……。
だからこそ、不愉快だった!
なぜ、自分は笑っている?
目の前の女は、何が面白いのかニヤニヤと、こちらの目を覗き込むように、座っている。
その視線は、何もかもを見通されているように感じられた。
自分の中に、土足で上がられた気がした。
お願いだから、そっとしていてくれないか!
続く
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