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投稿者:
イド・ダイスケ(だい) @ kuki5DU15.stm.mesh.ad.jp on 97/9/23 07:50:14
闇
……おなかが減ったな……
そんな事を考えながら、男は足を進めていく。
「さてと、これで最後だったな」
呟くと、扉の鍵を開ける。小会議室、と書かれた小さなプレート
が貼られた扉は、
静かに開いた。
「結局ただの噂か」
照明をつけ、扉から顔を覗かせる。
蛍光燈の明かりに照らされた部屋に、人影は存在しない。
それも当然だった。現在午前二時三十分、真夜中である。
ため息を一つ吐き、扉を閉める。
「せっかく、いかにもな時間を選んだんだけどな」
出口へ向かう男の表情は渋い。
「まったく、季候衆の連中もこの程度のことで、いちいち騒がないで欲しいものだ」
すでに全館の照明は落としてある。男の周りには、完全な闇とは言わないまでも、
それに準ずる闇がまとわりついている。その闇の中を男ははっきりとした足取りで進
んで行く。伸ばした手の指さえ見えないような闇の中を。
……ここから最寄りのコンビ二まで、どれくらいかかったっけ……
とにかく何か食べたかった。最後の食事から、すでに十二時間以上経っている。
おそめにとった昼食など、とうの昔に消化されていた。
「昼食って言うか、おにぎり一個だけだったしなぁ」
ほんの少し歩調を速め、出口へと向かう。
最後の角を曲がると、僅かだが闇が薄れる。月でも出ているのか、外は明るいようだった。
「……!?」
と、その歩みがにわかに遅くなる。
出入り口の前に人影があった。男の体に緊張が走る。
軽く握られていた拳を、ゆっくりと開き握り直す。人影は微動だにしない。ただこ
ちらを向きたたずんでいる。
そのまま数歩進む。おぼろだった人影は、少しずつ鮮明になっていくが、逆光の
ためその表情はわからない。
「……君か」
人影が長い髪の持ち主であり、やや小柄であることがわかるところまで近づくと、
男はあっさりと緊張を解く。
「誰だと思ったの? 真之」
かけられた言葉は若い女性のものだった。
「こんな所にいたのかい?」
安堵混じりの声音でそう言うと、女性と共に外へと出る。外にはやはり月が出ていた。
さらに、敷地のあちこちに設置された照明の光で、周囲の闇は思ったほど濃くはない。
「実際、少しばかりびびったたのは認めるよ」
女性のほうを向いて真之は苦笑した。背広を着た二十代前半のおとなしげな男だ。
体の線は細く、整ってはいるが特徴に乏しい顔立ちをしている。
「大の大人がなさけないわねぇ」
眉をひそめて言う女性は、思いのほか若い。十五歳前後にしか見えないが、その
表情は妖艶な美女のようでもあり、幼い童女のようにも見える。そして何より、女性
を特徴づけるものは、そのたぐい希な美貌だった。その美しさは、暗がりの中でも
損なわれることがなく。むしろ、その白い肌は暗闇の中で際立ってさえ見えた。
「あのねえ、沙耶さん。いくら大人だって、真夜中の市民会館は恐いと思うよ」
真之はおどけたように肩をすくめる。が、その様子は本気で怖がっている様子ではない。
「なに言ってるのよ。別に妖怪屋敷を調べてる訳でもないのに。……まあここの場合、
似たようなものかな?」
会館の入り口を見ながら、沙耶は小さく首をかしげる。
「どういう意味だい?」
すっと目が細められ、真之の口調が変わる。視線が沙耶と入り口の間を往復した。
「わからない? ほら、中を見てみなさいよ」
指された指を追うように、顔は沙耶から離さず目線だけを動かす。
「入り口がどうかした?」
「違うわ。もっと奥」
「奥? 建物の中?」
目を細め、眉をしかめるようにして、闇の中をうかがおうとする。しかし、別段変わ
ったところは見られない。
「わからないよ。私には沙耶さんのような力はないからね」
「力云々の問題じゃないわ。要は注意力よ」
左手を腰に当て、人差し指を真之に向ける。
「私があなたに聞いた限りでは、ここは比較的最近建設された建物よね?」
「そうだよ。たしか三年ぐらい前かな?」
なんとなく、視線を上の方にやり、昼に渡された資料の内容を思い出してみる。
「それなら、なぜこんなに暗いのかしら?」
人差し指を唇に寄せ、少し首を傾げるようにして真之に問う。
「暗い? そうか、この建物は暗すぎるんだ。最近の、しかも公共の施設なら非常
口の案内とかでもっと明るくてもいいはずか」
あごに手をやり、真之は誰とは無しに呟く。
「これは少しばかり不自然かもしれないね。濃すぎる闇という訳か。なるほど……」
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というわけで、第一回です♪
何か感想などいただけると、うれしいです(^。^)
でも、コピーアンドペーストで貼り付けたので、うまくったか不安です……(汗)
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