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日光 @ p09-dn01kuki.saitama.ocn.ne.jp on 97/8/08 10:02:01
巨人の拳が、大地を深く貫く。腐りかけたそれは、叩きつけられる度に歪み、崩れて行くが、巨人はそれを気にした素振りも見せない。生命反応がない上に、この異様な攻撃力とタフネスを持ち合わせている……宿主以外でそんな化け物がいるとすれば、それは……。
(ヘルダイバー……遺伝子操作。−−そうか、インフィニット・ソルジャー!? だとすれば理解できる……こいつの力が!)
良平は戦闘用プログラムが保存されているセルを取り出すと、コネクタと繋ぎ、脳内ターミナルと連結させる。プログラムが起動した瞬間、彼の脳裏に、ぱちりと火花のようなものが散った。
「……右か!」
巨人の拳は、右から横薙ぎにするように、良平目指して、漆黒の巨木の如く迫ってきた。それを難なくかわすと、良平は、ブラスターを巨人の脇腹に打ち込む。熱線は、敵に痛みだけでなく、組織の破壊ももたらす−−巨人にも効果はある。
巨人が僅かにひるんだその瞬間−−良平は、その懐に潜り込んでいた。
「……っ!」
再び、火花が散り−−良平は、素早く身を捻った。その彼の脇を、肉の蛇が弾丸のように飛んでいく。巨人の腹から発射された、腐肉の弾丸だ。
「よけるんだね!? やっぱり君は“電子の騎士”だ−−!」
「無駄口は必要ない」
良平は素っ気なく呟くと、巨人の腹にブラスターの連射を打ち込んだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その頃、美月とルリが何もしていなかったわけではない。彼女達は彼女達で、たいへん厄介な敵と戦っていた。
「地虫が……こんなに沢山……」
どこか恍惚とすらとれる表情で、美月が力無く呟く。嫌になるのも無理はない。彼女達の背後では巨人のゾンビが、そして目の前には、どう少なく見積もっても二十匹程度の地虫が迫ってきているのだ。
「ルリちゃん、これ全部、あなた一人で何とかできる……?」
「多分……そんなに成長してなければ、大丈夫だとは思いますけど……」
と、汗が頬を伝い、大地に落ちるのとほとんど同時に、一匹の地虫が彼女達目がけて襲いかかってきた。
美月は持ってきていたアサルト・パワー・ライフルを構え、引き金を引いた。
力場−−運動エネルギーの集束体を発射するそれは、バリアすら貫通する、対戦車用の重装備である。地虫程度が使うバリアになら効果があると良平に言われ、持ってきた物だ。
力場弾は、バリアを貫き、地虫の頭に正確にヒットした。
「やったあ!」
軽く飛び跳ねる−−
そしてその次の瞬間、二匹の地虫が、彼女に飛びかかった。
(−−嘘ぉ!!)
嘘でも何でもない、それは現実だ。
ところが現実は、あと一歩のところで美月を非現実の世界に連れ去ることに失敗した。
「はあああっ!」
ルリの髪の毛が、黒から紺に変化していく−−そしてそれに伴い、力が増大していくのがも傍目にもわかる。彼女は、美月に襲いかかろうとしている地虫に手を向けると、そこから『何か』を発生させた。
その『何か』は、地虫を押し潰し、大地に埋葬した。
「超重力。バリアですら防げない、ESPの一つです」
言って微笑むルリに、美月もまた微笑んで返す。
「借り一つ……絶対返すわよ」
「そうですね……でも、その前に……」
と、二人は真正面を向きやって−−
「「この虫を、片づけなきゃ」」
地下が、戦いの旗を掲げた。
続く
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