AZELについてPt.1(長文、ネタバレ)



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投稿者: Birdie @ mx-yok221.raidway.or.jp on 98/2/08 04:31:07

プレイ時間は、約23時間でした。無駄なことは結構したので、普通の状態なら20時間を切ると思います。通常のRPGが40時間前後であることを考えると、かなり短いとは思いますが、非常に密度の濃い23時間だったと思います。取り敢えず、考えたことを項目別に列挙してみました。


世界観
 舞台設定も含めてですが、巷で言われているように一見、「ナウシカ」です。ただ、決定的に違うのは、いわゆる「自然環境」「ヒューマニズム」という世間で考えられている「ナウシカ」色はほぼ皆無です。原作の「ナウシカ」の方がもっとこの世界観に近いかもしれません。人類にとって、非常に過酷な世界という基本的な設定は、あちらこちらで活かされています。例えば、この物語の中では大きな街は一つしか登場せず、後は、キャラバン、シーカーと呼ばれる人々の隠れ里ぐらいのものです。これは、CD−ROMの容量との関係もありますが、設定された世界観から見て、納得行くようになっていると思います。
 そして、一つ重要な点があるとすれば、RPGというゲームにおいて、必ずしもそこで構築されている世界の全てを描く必要はないということでしょう。AZELで表示されるワールド・マップは実は物語が展開されているマップを示しているのであって、全世界を表示していないことはシナリオからも明らかです。例えば、塔は4つあるとされてますが、実際にマップ上に表示されるのは1つですし、X、Yボタンで表示される帝国軍とクレイメン軍の進路からも彼らがこのマップの外から来たことは明らかです。また、あれだけの力を持つ帝国の首都もマップ上には表示されません。
 これも容量の問題と言うことが出来ますが、重要なのは作り手には選択することが出来たという点です。例えば、従来のRPGであれば、4つの塔を一つ一つクリアさせて、ラスボス戦に突入というパターンを取ったでしょう。その方がプレイ時間も長くできますし、その分ムービーを減らし、音声を減らしても、そのことで批判されるようなことはないと思います。しかし、AZELのスタッフはこの方法を選択しませんでした。全ての要素を絞り込むことによって、濃密な世界を構築することを選んだのです。
 考えても見て下さい。他の表現メディア、例えば、小説や映画で、世界の全てを描写しないといって批判されますか?逆に小さな街で、少ない登場人物だけで名作と評される作品は数多くあります。Interactivityというゲーム固有の表現方法は言うまでもなく、尊重されなければなりませんが、それ以外でゲームはこうあるべきだという姿勢は、ゲームというメディアの可能性を殺してしまいます。ゲームは未だ黎明期であり、成長過程にあると考えるからです。
 その点、AZELは良い意味で、従来の「世界は全て見えなければならない」という、大半のRPGを縛りつけていた文法(しかも大して重要ではない)を裏切っています。これは評価されることはあっても批判されるべきことではないと考えます。

シナリオ
 元々、ゲームは「内面」を描写することを苦手としていました。ところが、ハードの進歩により、かなり様々な表現が可能になってきました。逆にそのことが、プレイヤーに色々な議論を投げかけることになりました。今のところ、メジャーなのは、「ゲームに小難しい内面表現なんかいらねえんだよ」派でしょうか。ただ、前述のようにゲームの可能性を拡げることを考慮するなら、様々なタイプのシナリオがあってしかるべきでしょう。
 例えば、FF7が主人公の「内面」を掘り下げようとしたのに対して、AZELでは、そのような表現はほぼ皆無です。しかし、これは意図的に「内面描写」を避けたと見ることが出来ます。いわゆる、ハードボイルドと呼ばれる方法です。誤解をされる方がいらっしゃると困るので、簡単に説明をしますが、バードボイルドとは、探偵を主人公にした作品を指すのではなく、ヘミングウェイに代表される、内面描写を可能な限り削り、可視的な行動や、状況を前面に押し出した文体というのが元来の定義です。このことから、非常に簡潔に表現されることが多いのですが、それは表層的な事柄のみを取り扱っていると言うことではなくて、受け取る側に、その簡潔な表現から不可視的な「内面描写」を読みとる解析力が要求されると言うことなのです。
 AZELのシナリオは、そのような定義において、明らかにハードボイルド的です。違う言い方をすれば、「内面描写」が物語を邪魔するのを回避させた言っても良いでしょう。ストイックに表現されているからこそ、AZELのシナリオはプレイヤーに読解力を要求しているのです。