【私小説】李紅蘭的四方山話 その4(長い〜!)



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投稿者: SJPA8030@jpo-miti.go.jp @ gw.jpo-miti.go.jp on 98/3/02 12:08:38

その4

『なんですの?その「熊」とかいうのは? 紅蘭、あなたケダモノとも知り合いでしたの?』
 すみれはんも知っとるんやないの? 雪組の隊長はんのことや。
『そうそう、俺も今日、連絡会議の時に会ったんだけど、まさに「熊」ってカンジの人だったんだよ。』
『そうですの? わたくし、そのような方は存じませんわ。「雪組」という部隊が帝撃にあるということは聞いたことがありますけど...』
『隊長、今日は連絡会議に出られたのですか。』
『ああ、そうなんだマリア。知ってるのかい?』
『ええ。私がここに来たときに始まったものですから。』
『そうか!マリアは花組の隊長だったんだしな。』
『たしか..雪組の隊長は...薩摩中尉とかいう方ではなかったですか?』
『う〜ん..そういえばそんな名前だったような...』
 あれっ そうやったかいな? 言われてみれば、うち、ず〜っと「熊はん」って呼んでたからなぁ..。
 名前を聞いた覚えがないなぁ..
『うふふっ「熊」ですか!? そういわれてみればまさにぴったりですね。』
『マリアもそう思うだろ!? 俺もさっき紅蘭にその名を聞いてぴったりだって大笑いしたところなんだ。』
『ねぇねぇ、お兄ちゃん。「熊」ってジャン・ポールみたいなの?』
『えっ..どう言ったらいいのかな..? アイリスは本物の熊って見たことあるかい?』
『本物の熊? うん、動物園で見たよ。と〜っても大きくて毛むくじゃらで..ガオ〜ッていって怖かった。』
 あははっ アイリス そのとおりや。ジャン・ポールっちゅうより本物の熊やて思うた方がええで。
『でも紅蘭!? 何で紅蘭が雪組の隊長と知り合いなの?』
 それはな..うちがあやめはんにくっついて花やしき支部に行っとった時のこっちゃ..。
 うちは機械いじりが専門やろ? せやから、当時花やしき支部の兵器工場で作っとった光武の最終組立の手伝いをするちゅうことになったんやけど、光武は帝撃の最重要秘密兵器や。いくら特殊部隊とはいえ、帝国華撃団は一応、日本の軍隊やしな。うちのような、な〜んの実績もない外国人の、おまけに女の子がちょちょ〜いとさわらしてもらえるような秘密兵器なんてあるわけないで。
『でも、あやめさんが一緒だったのでしょう?』
 そうや、すみれはん。あやめはんはちゃんとうちを紹介してくれたけどな、現場の人間はそうはいかん。「軍の重要機密事項を中国人の小娘なんぞに見せられるかっ!!」って言われてなぁ。
 中国におった頃とおんなじや。女が機械いじりをするなんてもってのほかっちゅう雰囲気やった。
 あやめはんは、日本に来れば..帝撃に来ればうちの居場所があるて言うてくれはったんやけどな・・・、やっぱりここにもうちの居場所は無いんや...って思うたら、なんや悲しゅうてなぁ..。
 うち、ある時、人がおらんようになった花やしきの地下工場でめそめそ泣いとったんよ..。
 そしたら、後ろから急に「ウォ〜」ちゅう唸り声がしてな、なんやっ!て思て振り返ったら、そこに大っきな熊がおんねん!!
 後で思たら、帝都のド真ん中にある軍の秘密工場に熊なんぞおるはずないんやけどな。
 でも、そん時はうち もぉびっくりしてなぁ「ひゃぁぁぁぁ!熊やぁぁぁぁ!!熊が出たでぇぇ!!!」と叫んで腰を抜かしてもうたんや。
 そしたらその熊が「なにいっ!熊が出たぁっ!どこやぁぁっ!!」っちゅうてきょろきょろしとるやないか。
 今なら「ああ、人間やったんか」と思うとこやけどな、その時はなにしろ気ぃが動転しとったさかいなぁ「ひゃぁぁぁぁっ!熊が喋ったぁぁ!!」って、も一度叫んだところで気が遠くなってしもたんや。
 気が付くと医務室に寝かされとってな、周りに誰かがおる気配がしたんや。うち近眼やから、眼鏡がないとよう見えんかったけど、声からすると一人はあやめはんでな、他の人は男の人のようやった。
 うちが目ぇ開けたさかい、あやめはんが眼鏡を取ってくれてな、それをかけたら、目の前にさっきの熊がおるやないか!! うち「ひゃぁぁぁぁっ!!」ちゅうて、また目ぇ回してもうてなぁ..
 次に気ぃ付いた時には、あやめはんだけがおって、うちに今までの顛末を教えてくれたんよ。
『その「熊」が雪組の隊長だったってわけだ。』
 そうなんや、大神はん。雪組の隊長はんはな、当時、雪組用に作られた特殊装備の出来があんまりひどいんで、文句を言いに製造元の花やしき支部まで来てたらしいんや。
 それで、現場の人間に話をつけようと工場に来てみたら、だ〜れもおらんうす暗い工場で、若い娘がめそめそ泣いとるやろ。こりゃてっきり誰か不心得モンに連れ込まれて、なんかされたんやないかと心配してくれはってな「お〜いっ!」って声をかけてくれたらしいんや。
『それを紅蘭が、熊の唸り声と勘違いしたってわけだ。』
 えへへ、どうもそうらしいんや..カンナはん。けど、誰かてあの時の雪組の隊長はんの格好を見ればそう思うで!何しろ髭ぼうぼうの顔で、おまけに軍服の上に熊の毛皮着てはったんやから..なぁ、大神はん?マリアはんかてそう思うやろ?
『ええっ!あの顔に、熊の毛皮かい? そりゃ無理ないかもなぁ...。』
『そうかもしれないわね、紅蘭。』
 そやろ? で、雪組の隊長はんにしてみるとな、心配して声をかけたら、うちに「熊がおる〜!」て叫ばれたんやけど、どうもこれが「降魔がおる」と聞こえたらしいんや。それで思わず「降魔はどこや〜っ!」と言うたらしいんよ。
 そしたらうちが「熊が喋った〜!」ちゅうたもんやから、どうやら「自分」が「熊」や言われて驚かれたらしいっちゅうことに気が付いてな、文句言ったろ思たら、うちがぐったりしとるやろ、あわててうちを抱えて医務室はどこや〜!てウロウロしていたところで、丁度うちを探しに来たあやめはんと会ったらしいんよ。
 それで、医務室に案内されて、うちを寝台に寝かして、お医者の先生とあやめはんに事の次第を説明している最中にうちが気ぃ付いて..も一度気絶されたっちゅうわけや。
『..雪組の隊長さんもさんざんですわねぇ..』
  続く