「犬(dog)」第十回



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投稿者: 高山 比呂 @ ppp-y105.peanet.ne.jp on 98/2/26 01:01:52

In Reply to: 次ページにて「第8回メッセージ文コンクール」開催!

posted by 高山 比呂 @ ppp-y105.peanet.ne.jp on 98/2/26 00:51:43

 1ヶ月後
「なんで私が言わなきゃいけないのよ」
「いいじゃん、別に」
 窓側の後ろから二番目の男女は、相変わらず授業中にお喋りをしていた。
「よくないわよ、あんたが言えばいいでしょ」
「だっ、俺が言ったらおかしいだろ」
「おかしくないわよ」
「いや、絶対変だって」
「変でも、見つけた人が言うのが普通でしょ」
「おまえな、そりゃヘリクツだよ」
「ヘリクツでもいいよ〜だ、私は絶対に言わないからね」
「あ〜、じゃ俺も言わねえや」
「なによそれ、卑怯じゃない」
「卑怯でもなんでもいいだろ、別に関係ねえんだから」
「あんたね、カワイソウだとか思わないの」
「なんだよ、そんなこと言うならおまえが言えばいいじゃん」
「いやよ、恥ずかしいもん」
「だろ、だから言わなくていいんだよ」
「でもさ、言っといた方がいいって。ねっ」
 そう言いながら、右手で男子の左肩をポンと叩く天川。
「待てよ、女のおまえが恥ずかしいってんだから、男の俺が言えると思うか」
「あんたなら言えんじゃないの」
「バカ、そんなはずねえだろ」
「バカまで言うことないじゃない」
「実際バカなんだからしょうがねえだろ」
「も〜、バカって言う方がバカなんだよ」
「おい、今時そんなの、幼稚園生でも言わねえぜ」
「そんなことないよ、私の妹、小4だけどよく言ってるよ」
「じゃ、おまえらがバカ兄弟だってことだよ」
「あんた、それチョット言い過ぎじゃない?」
「言い過ぎじゃない」
「ふざけないでよ」
「天川さん、静かにしなさい」
 大きすぎた天川の声に、大人の一言が教室中に響く。
「・・・はい」
「いぇ〜、怒られてやんの」
「あんたのせいじゃない」
「え、そうだった?」
「あんたね〜」
「ま、そう気にすんなよ」
「気にするわよ」
「そりゃあ、わるうございました、お嬢様」
「また、それやる〜」
「なんだ、ノってくれよ」
「・・・よかよか、許すぞ、爺」
「はは〜、ありがたき幸せでございます〜」
「あんた、ほんと、これ好きだよね」
「好きなのはおまえだろ、俺が合わせてやってんだよ」
「人のせいにしないでよ」
「してねえよ、真実を言ったまでだよ」
「まあ、たしかに嫌いじゃないけど」
「ほら〜」
「・・・うん、だね」
 昼休み。
 隣の教室。
 かおりんと山元が2人向き合って話をしていた。
「っふ〜ん、そうなんだ」
(やっぱ、異世界だから違うんだな)
「あ、ねえねえねえ、ちょっと話し変わるけどさ、佐藤のことどう思う?」
「え、いや、別になんとも」
(あいつ、わざとらしくて嫌いなんだよな)
「そう・・・」
「ん、それがどうしたの?」
(突然何なんだろう)
「え、いや、ただ聞いてみただけ」
「もしかして、好きなの?」
(まさかとは思うけどね)
「ち、ちが・・・わない。うん、好きなんだ」
「へ〜」
(本当に?あんな、奴のどこがいいんだろう)
「ね、もしなにかあったら協力してくれない?」
「うん、いいよ、喜んで」
(って言っとかないとね)
「ありがと〜、かおりん」
 山元は、かおりんの両手を各々掴んで振りながらそう言った。
「いや〜、まかせといてよ」
(やばいな〜、すごい喜んじゃってる)
「お願い、なんかあったら絶対協力してね」
 両手を掴んだまま顔を近づけてきた。
「は、はい」
(すごい迫力だよ)
 暗室の流し台にへばりついてるかおりんの写真。
〈あ〜、いつになったら返事来るんだろ〜な〉
 少年は、スポンジの飛び出した椅子の背もたれに体を預け、赤のライトを見つめていた。
トントン
「はいってますか〜?」
 黒のカーテンの向こうにある扉から聞こえてきたノック音と男の声。
「あ、今、ズボン上げてる最中なんで、もうちょっとお待ち下さい」
 少年はそう言いながら立ち上がり、扉に近づいていった。
ドンドンドン、ガチャガチャガチャ
「ちょっと、早くして下さいよ、漏れちゃいますよ」
 強くなったノック音、鍵のかかったノブを強引に回す音、そして男の声。
「じゃ、漏らして下さい」
 少年は、つまみを左に回し、鍵を開けた。
「よ」
 男は扉を開けるとすぐに、右手を上げながらそう言った。
「なんだよ、ハンナマ。ここ使うのか?」
「いや、別に。暇だったから来てみただけ」
「そんなら、久我石鹸でも作ってろよ。俺は忙しいんだよ」
「何処が忙しいんだよ。何にもしてねえじゃねえか」
 整頓された暗室の中を指差しながら、ハンナマ。
「え、お前には見えないの?薬品とか全部出てるじゃん」
「いや〜、見えませんね〜」
「そうですか。え〜、ではですね、そこの突き当たりを左に曲がると泌尿器科がありますから、そこで診察を受けて下さい」
 少年は、正面の窓を指差しながらそう言った。
「あの〜、今日受診カード忘れちゃったんですけど」
「ふふふっ、は、は、バ〜カ」
「なんだよ」
「ほんと、お前くだんねえな」
「そりゃ、お前だろ」
「ま、ともかく、よいこはお外で遊びなさ〜い」
 少年は、またも正面の窓を指差しながらそう言った。
「え〜、でも、ちゅまんない〜」
「ゴリとか、モナカとかいるだろ、そいつらと遊んでろよ」
「だって、今、誰もいないんだも〜ん」
「嘘つくなよ、声聞こえてきてんじゃねえか」
「あれは、あれだよ。あの、・・・ゴーストライター」
「なっに、わけわかんねえこと言ってんだよ」
「ともかく、入れてくれよ」
「じゃ、入場料5000円な」
「あらま、お安いわね」
「そのかわり、テーブルチャージ料6千万円頂きます」
「ほんと、も〜さ〜、いいから入れろよ」
「ダメ〜」
「も〜、そんなことすゆと、健ちゃんぶつぞ」
 ハンナマは右腕を上げ、げんこつのポーズを取った。
「わかったわかった、じゃ俺が外に出るよ」
「い〜よ〜、別に〜」
「なんだよ、それ。じゃ、また戻るぞ」
「冗談冗談」
「ま、いいや。じゃさ、また静電気グルグルやろうぜ」
「お、いいね〜」
 カーテンの隙間から赤い西日の射す音楽室。
「すっごい、うまかったよ」
 そう言いながら裕子は、軽く手を叩き合わせた。
「そう?」
(やった、誉められたよ)
 演奏を終え、座りながら答えるかおりん。
「うん、ほんと、すごいすごい」
「それほどでもないよ」
(なんか照れるな)
「頑張ったんだね」
「うん、まあ、それなりに。でも、まだ裕子の方がうまいよ」
(毎日練習し続けたけど、まだかなわないよ)
「そんなことないって、かおりんの方がずっとうまいよ」
「え〜、だって、私まだ失敗するとこあるじゃん」
(あのコード進行、難しいんだもん)
「でも、なんか心がこもってるって感じがして、すごくいいよ」
「そう?」
(こんなに誉められると、恥ずかしいな)
「うん。私のなんて失敗はしないけど、心がこもってないと思うの」
「そうかな〜?結構心に響くものあるよ」
(よくわからないけど)
「ありがと。・・・でも、私も頑張らなきゃ」
「そうだね、一緒に頑張ろ」
(あ、なんか青春ドラマみたい)
 そう言いながらかおりんは、右手を差し出した。
「え、あ、う、うん」
 裕子はうつむきながら、その手をそっと握った。
 少女達の太陽はまだ小さい。

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作者の独り言:

くだらないなと感じられたと思います(笑)。ですが、そう思って頂ければ成功なんです。やっぱり日常というのは、大抵くだらない話題で笑っているものなんだと思うんです。