交通事故。その瞬間・・・



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投稿者: バシル @ 133.100.212.21 on 98/1/29 11:11:24

In Reply to: 「第7回メッセージ文コンクール」

posted by 高山 比呂 @ ppp-y077.peanet.ne.jp on 98/1/29 07:02:16

毎朝自転車で通りかかるあの交差点。
その交差点で 俺は事故に遭遇した。





突然車が視界に入ってきたとき、俺の頭によぎったのは

(ああ、やっぱりな・・・。)

いつかは事故るとは思っていた。
それほど無謀な運転を いつもしていたからだ。
全速で交差点を突っ切るのは危険だ。それは分かっている。
しかし、その一方で俺は、
「絶対に事故ることはないんだ、テレビのヒーローのように。」
等という、甘い幻想に抱かれてもいた。



車と衝突する。
瞬時に防御訂正をとったが、そんなものが車に通用するはずもない。

「ボン! ドン!」

はじめの音は俺の下半身が車にぶつけられた音、
次は俺の上半身がボンネットにたたきつけられた音。
なぜか痛みは感じない。一瞬目の前が真っ白になる。

・・・だんだん景色が見えるようになってきた。
今 俺は はねとばされて宙を飛んでいるらしい。
スライドしていく風景に違和感を覚える。全体的に黄色がかって、
変に ぐらついたりする。
自分が生(なま)で観ている景色と言うよりは、
テレビ越しに見る古ぼけた 映像 のようだ。



風景が激しく揺れる。着地して頭を打ったらしい。
口いっぱいに鉄の味が広がる。
一瞬その味が懐かしく思えた。なぜだろう。



音が聞こえてくる。たぶんエンジン音だろうか。
その音も 生で聴いていていると言うより、昔の あの白いイヤホンから
聞こえてくるような、変な感じだ。

体が動かない。動かそうとする意志はあるのに。
まるで自分の体ではないみたいだ。

(俺、やっぱ死ぬんだろうな・・・)

そう直感したとき、俺の頭に家族の顔が浮かんだ。

(親父とお袋はやりきれないだろうな・・・)

ぼんやりと葬式の映像が浮んでくる。

(クラスのみんなが来てくれてんだ。二宮もいる。
あいつとは結局仲良くなれなかったな。
美枝には まだモーションかけてなかったけど、
まぁその方がすっきり別れられて いいか。)

ぼんやりと俺の部屋が見えてくる。

(みんな俺の部屋で何をやってるんだ?
・・・そうか俺が死んだから部屋のものを整理しているのか。
フッ。大変だぞみんな。俺の部屋はすごく散らかっているからな。)

おふくろ が机を片づけている。
取り乱しているせいか、何となく手つきがぎこちない。
あれ、山内だ。家族と一緒に部屋の整理をしてやがる。

(まぁ、あいつは学級委員だからな。どうせ嫌々ながら だろうけど。)

親父は俺のベッドを片づけているところだ。・・・・・エェ!?

(しまった! 親父ィー、 俺のベッドに手を出すなー!!)

俺の魂の叫びもむなしく、親父がベッドのマットを持ち上げた。
そこには、エッチ本が数冊 きれいに整列されている。

(・・・ちくしょう。)

エッチ本の中の何冊かを見て、さらに戦慄する家族達。
彼らの見たそれは、エッチ本でもかなりマニアックな趣のもの
ばかりだからだ。

(あっ、ちがう! 誤解だ!!
そのマニアな本は たまたま高山から借りたものなんだ!!
俺の趣味なんかじゃない。
たくさん借りた本の中に混じってただけなんだァ。)

ふと、俺は我に返る。
体中に激痛が走ってきた。どおやら麻痺していた感覚が回復しているようだ。

(くっそー、まだ死ぬわけには・・・)

ぼんやりと教室の映像が浮かんでくる。
山内が早速 本のことを言いふらかしたらしく、教室中が盛り上がっている。
そんな中で、本の持ち主である高山は・・・知らんぷりだ。

(・・・せ、せめてあの本を始末するまでは 死ねんぞ。
このままでは みんなに変態扱いされてしまう。
あれはちがうんだ。あの本は俺のじゃなくて・・・)

俺の耳に救急車のサイレン音が飛び込んでくる。





----- 救急病院の緊急治療室 -----

「ピッ・・・・・・ピッ・・・・・・ピッ・・・・・・ピッ・・・・・・」

救急医「なんて、すさまじい生命力だ。この状態で生きていられるなんて!!」

ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・





この物語はフィクションです。
したがって登場人物も架空のものですのでご注意願います。