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投稿者: 高山 比呂 @ ppp-y094.peanet.ne.jp on 98/1/30 02:03:36

In Reply to: 「第7回メッセージ文コンクール」

posted by 高山 比呂 @ ppp-y077.peanet.ne.jp on 98/1/29 07:02:16

 もう終わりだと思う。
 
 それはお互い感じてる。

 好きな人ができたとか、嫌いになったとか、そんなんじゃないけど、もうどこにも一緒にいる理由がないんだと思う。実際俺はそう思ってる。

 でも、お互いに振りほどく強さも、そんな冷たさも持ってないから、今日もまた、キスをして、抱き合っている。

 だから、俺はまた始まりに戻りたいと思った。お互い見つめ合うだけでドキドキしてしまうような、そんな関係に戻りたい、戻したい。いや、そんな関係に戻らないとしても、一緒にいることの意味を再確認できるだけでも、それだけでもいいと思った。そのためには、まず俺が君に、恋してる、愛してることに気付く必要があるんだろう。

 月曜日、早目に仕事を切り上げ、彼女と初めて出会った電車に乗った。同じ時刻、同じ車両、違ってるのは、乗客ぐらいだろうけど、これだけ沢山乗り込んでいれば、違っていても誰が誰だかわからない。俺は、前の方に並んでたから、座ることはできたけど、あえて座らずにあの時と同じ吊革につかまった。以前は円形で回すことのできた吊革は、三角形の固定型になっている。君の座ってた席に今は、あの当時の君と同じ背格好の女が座ってる。なんか申し合わせたみたいにうそ臭い光景だったけど、ついその女を見つめて、出会った頃の時を考えてしまった。そして、またドキドキした気持ちになった。きっとこの気持ちは、確かに魅力的ではあるものの今座ってる女にじゃなくて、あの当時の君への気持ちなんだと思う。

 火曜日、営業帰りに、初めて一緒に遊びに行ったとしまえんに寄った。さすがに平日の午前中ということもあって、人はあんまりいなかったけど、カップルは何組かいて。でも、そいつらの様子は、あの当時の俺達よりもいちゃついてるって感じで、あんまりそいつらを通して思い出すことはなかったんだけど、逆に奥手だった俺と君のことを思い出せたっていうか、初々しかったなって思えたっていうか、なんだか顔が自然にほころんでくるような気持ちになれたし、観覧車とか、ゴーカートとか、そんなものを見て、あの当時の笑顔思い出せたりしたし、なんか君とまたここにくれば、お互いの気持ちに気付くんじゃないかなって思えた。

 水曜日、仕事帰りに途中下車して、初めて一緒に観に行った映画館に入った。あの当時、一緒に観たのは「メン・イン・ブラック」だったけど、今は「スターウォーズ」を上映している。パンフレットを買って、あの当時と同じ席に座る。いや、あの当時と同じような位置の席って言った方がいいのかもしれない。映画は始まった。話題通り面白かったし、熱中もした。でも、なぜだか君も隣で観ているような気になっちゃって、何度も左隣の空席の方、見つめたりしてて、やっぱり俺は常に君と一緒なんだなって思った。

 木曜日、初めて君へのプレゼントを買った店に立ち寄った。別に、なんの記念日でも、なんでもなかったけど、突然君に、あの当時俺が自分の部屋で使っていた、このストロベリーディライトっていうポプリをあげたんだっけな。少しでも、俺と同じになって欲しかったから。そういや最近、これ買ってなかったな。家に帰って、久しぶりにこの香りをかいだら、なんか、あの当時を、君を思い出しちゃって、落ち着くって言うよりも、ドキドキしてしまうって感じの方が大きかった。やっぱり、今でも君のこと、好きなんだってつくづく感じた。

 金曜日、初めて君と観たコンサートの会場に来た。あの当時、2階席から観てたんだけど、今は誰も公演してなくて、外から見ることしかできない。それでも、このヨットの前で会場に入るために一緒に並んだことを思い出せるし、帰りに混雑した駅への道のりで、はぐれない様にと、強く手を握り合ったことも思い出せる。もしかすると、コンサートの内容よりも、君とのことの方が覚えてるかもしれない。俺の中で君がいかに大きな存在だったかってことがよくわかる。

 土曜日、初めて君とドライブした道を走ってみる。車窓から見える風景は、あの当時と変わらないで欲しかったけど、いろんな工事中の看板や、人を入れるための箱が建ってて、なんだか風の向きも変わって感じられるほど、違っていた。でも、休憩するために寄ったドライブインはあのままだったし、山々の景色も同じだった。ただ、1人で車に乗ることがこんなに寂しいものだったのかなって思えて、君がなにも言わず助手席にいるだけで、俺は幸せだったってことを実感した。やっぱり俺には君が必要なんだ。

 日曜日、俺は君をとしまえんに連れていった。久しぶりに君をみてるだけでドキドキできた。多分君もドキドキはしないまでも、一緒にいることの意味を再確認したと思う。再確認していて欲しい。そして、今日をチェックポイントとして、これからもずっと付き合っていけると思いたい。そんな君への想いを、胸に秘めたまま、今日一日過ごして来た。今、君を家に送り届け、俺はもう自分の家に帰るだけだ。いつもよりもいろんな想いを込めて、右手を上げ「さよなら」って言って、いつもの様に帰ろうとした。でも、君が右肩を叩いて呼び止めたから、つい「え、なに?」って声を出して振り返ったんだけど、君は真剣な顔で俺を見つめて、
 
「あのね、私ね・・・」

 俺はしばらく考えて、「わからない」と答えた。