リレー小説土星第26話『snow』5



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投稿者: イ中イ非 @ pppb91c.pppp.ap.so-net.or.jp on 98/1/28 09:24:01

In Reply to: リレー小説土星第26話予告

posted by イ中イ非 @ pppb91c.pppp.ap.so-net.or.jp on 98/1/28 09:18:22

地球へ向かう飛行機の内装は、おそろしく豪華なものだった。
客席がひとつの部屋になっていて、学校の教室の2倍くらいの広さもあり
壁紙なんかさっきのホテルのより奇麗で、椅子やテーブル、その他の
調度品にも細かく宝石がちりばめられていた。
「酔っちゃいそう…」
エリーが遠い目をしてテーブルとは思えないテーブルの上にある
灰皿とは思えない灰皿を手に取る。
「座ろうよ」
レイがソファをぽんぽんと叩くので、私とエリーは顔を見合わせると
緊張した面持ちで、柔らかすぎるソファにお尻を深く沈み込ませた。
深く深呼吸したエリーが、目を輝かせながら明るい声で話し掛けてきた。
「いよいよ地球かあ。憧れの男の子にすぐ会えるといいね」
「べつに『憧れ』ってわけじゃ…」
「照れなくてもいいわよ。太陽系をまたにかけた遠距離恋愛なんて
ロマンチックで素敵じゃない」
「だから、そんなんじゃないって」
と言いながらも私は、顔を赤くしてはにかんだ笑顔を見せていた。
「まんざらでもないって感じだね」
レイが椅子を持ってきて私に向かい合うように座った。
「ひとつ君に言っておきたいことがあるんだ」
「な、何よ…」
私は、自然と姿勢を正した。
「もし君が、その男の子に特別な感情を持っているなら、それはあきらめたほうがいい」
「え…」
「恋してるなら、それは叶わぬ夢ということさ」
「どうしてそういうこと言うの?」
エリーが信じられないといった顔でレイを見た。
「勘違いしてたら困るから言うけど…」
レイが私の目を覗き込んだ。
「第一に、僕は君を男の子に再会させるために、存在しているわけじゃない」
私ははじめてレイの瞳をじっくりと見つめた。
井戸からこんこんと湧き出る、澄んだ冷たい水のような輝きがそこにあった。
私は急にいたたまれない気持ちになった。
「第二に、彼には守るべき人が別にいる。
これは、太陽系を救うためには、決して崩れてはいけない関係なんだ」
私は、思わず視線をそらした。
そして、しばらく沈黙が続いた。
「まあ、そうは言っても簡単には割り切れないか」
レイは寂しそうにつぶやいて「難しいよね、人間は」と付け足した。
「私…だって」
うつむいたまま、私はうめいた。
「最近なのよ。『人間が難しい』と知ったのは」
「僕も、最近だよ」
レイは大きくうなずいて、言った。
「昨日、テレビドラマで言ってた」
それを聞いて、エリーは大笑いした。
私も、馬鹿みたいだと思った。




つづく