ショート・ショート『存在理由』



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投稿者: さすらいさんの作品 @ ppp-y074.peanet.ne.jp on 97/12/31 07:23:24

In Reply to: メッセージ文コンクール’97

posted by 高山 比呂 @ ppp-y074.peanet.ne.jp on 97/12/31 07:02:09


[H2]存在理由[/H2]

 私は今、自分の存在理由について考えている。何故考え始めたのか、そんな
ことはどうでもいい。私はただ、この果てしない思考のパラドックスから抜け
出したいだけなのだ。だから、延々と考え続けている。

 存在理由を見つけるという事は、社会という大きな機械組みのなくてはなら
ない歯車の一つが自分だと見つける事だ。これは意外と難しい。しかし、どう
しても見つけださなくては気が済まない。そこで私は、もし私という人間が存
在しなかったらと仮定してみた。
 うちの両親はどうだろうか。別に私という娘がいてもいなくてもいいような
気がする。存在してから死んだのなら悲しみもするだろうが、もともといなけ
ればそれまでだ。もっと違う子が娘でもいい。子供が出来なくたって、それは
それで仕方ないこととして受けとめるだろう。
 じゃあ、学校や友達はどうだろう。学校全体としても、私がいないというこ
との被害はみじんもないはずである。むしろ、同い年の試験に落ちた子が1人
入学できるのであり、その子が入ったせいで偏差値が1つあがるかもしれない。
それだったらその方がいい。学校の友達だって、私がいなければ他の誰かと友
達になっているだろう。私1人分友達が出来なくたって、もともといない1人
分だ、それはそれで受け入れるだろう。親友と感じ合ってるあの子だって、私
じゃない人間が親友として現れるはずである。先生にしてみれば、名前と顔が
一致しやすくなるかもしれないし、少なくとも1人分は覚えなくてすむはずだ。
 あの人はどうだろう。私を大切だ、必要だと言っているあの人は。あの人に
とって私はなくてはならない存在なのだろうか。・・・・・・・いや、やはり
そんなことはない。私がこの世に存在して、それで巡り会わなかったのであれ
ば悲しみもするだろう。しかしもともといなければ、誰か他の人を大切に想い
慈しむだろう。出会いとは、そういうものだから。

 こうやって考えてみると、どうもやっぱり私はいなくてもよかった気がする。
私がいなければ、私自身がこうやって悩むこともなかったのだし。私という歯
車が抜けたって、きっと社会は止まらない。私という歯車のために、社会はど
うでもいいようなスペースを空けてくれているだけなのだ・・・・・・・・・。
「ちょっとー、ごはんよー」
 母の呼ぶ声が聞こえる。ああ、今こんなに真剣に考えている最中だと言うの
に。・・・・・・結局私は食堂に行くことにした。どんなに崇高な思考も、私
にとっては空腹に打ち勝てるものではない。
 今日はほうれん草のおひたしと豆腐の味噌汁、焼き魚だった。自分には出せ
ないこの味をよく噛みしめながら私は食べきった。食器を重ねて流しに持って
いき、部屋に向かった。またあの続きを考えなければ・・・・。
「ごちそうさま、おいしかったよ」
「・・・ああ、貴方がいてくれて嬉しいわ」
 私は驚いて、思わず母の方を振り返った。母は、きょとんとした顔をして
こちらを見ている。
「・・なんで・・?」
「だって、他の人はみんな『おいしかった』なんていってくれないもの。やっ
ぱり、そう言うのが聞けるから明日も頑張ろうと思うんだし」
「・・・・・そう・・・・・」

 私はゆっくりと階段を上った。考え事をしていた。さっきの母との対話につ
いてである。・・・・・なるほど、ものすごく妥当だ。さぁ、もっといい答え
が見つかるまでとりあえずそういうことにしておこう。これが私の存在理由。