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高山比呂の作品 @ ppp-y074.peanet.ne.jp on 97/12/31 07:16:31
In Reply to: メッセージ文コンクール’97
posted by 高山 比呂 @ ppp-y074.peanet.ne.jp on 97/12/31 07:02:09
俺はいつもの通り、総武本線下り成東行き千葉駅発19:03の一両目に乗っていた。運がいいことに今日は座ることができた。二人がけの席だ。隣には、いい言葉で言えば、脂の乗りきった男が座っていた。俺の前の吊革につかまっている男は、脂が乗り過ぎたとでも言っておけばいい奴だった。脂の乗りきった男の前の吊革には、中の上くらいの女がつかまっていた。けっこう俺の好みに近い。服装は自由が丘系だし、化粧もあまり濃くない、髪の毛は黒髪ストレート。肌は白い。なによりやせているのがいい。スレンダー。そんな女に俺は弱い。でも、他の奴らが見ると、あんなペチャパイのどこがいいの?と言うのだろう。そんな奴らに、俺は言いたい、胸の谷間のどこがいいの?と。
いつもの通り、くだらない考えごとをしているうちに、四街道駅に着いた。ここでは人がたくさん降りる。大半の人がここで降りる。隣の男も、前の男もここで降りた。だが、女は降りずに俺の隣に座った。正直嬉しかった。俺は座り直した。俺はこういう状況になると、女を架空の恋人として見たくなる。今日の映画楽しかったね。そんな台詞が言いたくなる。だけど、そんな台詞を実際に言っても、女は今日映画なんて見てないだろうし、俺だって今日映画なんか見てない。それでもなんかこういう台詞かな?って思う。
そんな考え事をしているうちに、佐倉駅に着いた。ここではたくさんの人が乗ってくる。たくさんといっても、各ドアにつき7、8人だ。それでもたくさんと思える俺は、田舎者なのか。ここから先は電車も単線になる。上りと下りが駅ですれ違うあれだ。しかも俺の降りる駅の両隣駅は無人駅だ。やはり俺は田舎者だな。そういや、今電車に入ってきた奴らは、俺とこの女のことどう思ってるんだろう?恋人同士とでも思っているのかな?それならキスの一つでもしてやるか?でも、それは犯罪だ。それなら声をかけて許可を取ればいいだろう。声をかける。そんな事を考えてたら、女を以上に意識するようになった。この女を連れて歩きたい。この女とキスがしたい。この女を抱きたい。この女の奉仕が受けたい。この女との子供が欲しい。今までに無いほどの空想世界に入った。声をかけたい。やがてそう考えるようになった。今までは空想で終わっていた。だけどこの女には声をかけたい。そんなにいい女ではないし、俺の好みに近いってだけで、本当の好みとは外れてる。でも、声をかけたい。今こそ声をかける時だ。そう自分に言い聞かせる自分がいる。ドキドキしてきた。昔した、告白の時と同じ感じだ。だが、あの時は振られた。それにあの時は仲のいい友達だった。今回は全く知らない人だ。俺は人見知りだ。今まで知らない人に声などかけたことはない。ナンパなんてしたこともない。でも、声をかけたい。ここで声をかけなくちゃいけないような気がする。運命ってやつじゃなくて、使命感ってやつだと思う。でもなんて言えばいい?突然見知らぬ男から声をかけられたらどう思うんだろ?変な奴だと思われて無視されるのかな?それはいやだ。もしかすると周りの人に助けを求めるかもしれない。そして周りの人は俺を押さえつける。何もしてないのに俺は犯罪者だ。それはもっといやだ。そんな危険を冒してまでこの女に声をかけたいのか?かけたい。恥をかいても一瞬だけだ。もうこの女に会うことはないだろう。声をかけなくてはいけない。
決心がついたところで、南酒々井駅に着いた。ここでは上りの電車とすれ違うために長く止まる。いつも止まる。通称タイムブラックホールと言う。俺の降りる駅はあと2つ行ったところだ。ここで声をかけなければ時間はもう無い。本当は次の駅でも声をかけることはできる。できるが、この女がどこで降りるかわからない。次の駅は無人な割に降りる奴が多い。女もその一人かもしれない。だから声をかけなくちゃ。でもなんて言う?どんな言葉が自然だ?俺にはわからない。こんにちはでいいのか?こんばんわになるのか?それさえもわからない。でも声をかけなきゃ、声をかけろ、声をかけるんだ。
「あ、あの」
「はい?」
「結婚して下さい」
「え、あ、あの、その、あの、は、はい」
これは空想ではない。実際に起こったことなのだ。俺は女と結婚することになったのだ。なんで俺はいきなりこんな事を言ったのかわからない。緊張のあまり、気が動転していたのだ。ただ声をかけたかっただけなのに、なぜ俺は結婚なんていったんだろ?確かに結婚願望はあった。でもそれは恋愛の末のものだと思っていた。初めて声をかける相手に対してはそんなことは思わなかったはずだ。でも俺は言ってしまった。そして女は同意した。なんでこの女が同意したのかはわからない。わからないが、そんなことどうでもいい。早く結婚したい。この女となら幸せな家庭が築けるだろう。子供は2人がいい。俺は一人っ子だったから、子供には同じ思いはさせたくない。ともかく、早く籍を入れよう。俺は成人だし、今日はたまたま印鑑も持っている。すぐに結婚はできる。
「あの、印鑑、持ってますか?」
「え、あ、はい、持っています」
やった。これですぐ籍が入れられる。あとはこの女と市役所にいくだけだ。
「あ、あの、じゃ、このあと市役所に行きませんか?」
「は、はい」
そんな事をしているうちに榎戸駅に着いていた。人が降りる。みんな改札からは出ない。誰もいないからだ。だからみんなフェンスを越える。こうしたほうが団地に行きやすいからだ。女はここで降りなかった。俺と同じ駅で降りるのだ。市役所に行くためかもしれない。本当に同じ駅を利用しているからかもしれない。俺の降りる駅で今乗ってる奴らの半数は降りる。当然全ての奴の顔なんて覚えられない。もしかするとこの女と何度か同じになってるかもしれないけど、わかるわけがない。たぶんお互いそうであろう。隣の人の事がわからないなんて、けっこう都会ではないか。一応CITYだしな。まあいい。早く駅に着いてほしい。でもそう思っているときにかぎって時間が経つのが遅かったりする。だからといって女と話そうとも思わない。何を話していいかわからない。恥ずかしくて声がかけられない。結婚が決まった、いわば婚約者なわけなんだけど、他人としか思えない。他人とは話せない。やはり人見知りしてる。
やっと八街駅に着いた。ここで降りる。たくさん降りる。一両目に乗ってる奴はたいてい走る。走って歩道橋を越えて改札を通る。でも俺は走らない。歩く。女も降りた。女は俺の後ろを歩いた。本当ならば手をつないだ方がいいんだろう。でもそんなことできない。しちゃいけないような気がする。俺には一つ問題があった。ここの駅の駐輪場に自転車が置いてある。女を待たせて取りに行くのはどうかと思う。そう俺は思ってしまう。へんてこな礼儀を持ったものだ。まあいい、市役所まで歩いて行こう。
「あ、あの私、自転車あそこにおいてあるんですけど、取って来ていいですか?」
「え、あ、お、俺も置いてあるんだ」
女の方から言ってきた。俺のことより自転車の方が大事なのだろうか?俺は女を一番に思ったから自転車を犠牲にした。だが女は犠牲にしなかった。俺も自転車も両方得ようとしている。一途じゃない。将来浮気しそうだ。
自転車に乗った。女と俺の自転車の置き場は近かった。近くなかったら俺は家に帰ってしまったかもしれない。そんな気分だった。ここから市役所までは近い。自転車を使えば五分もかからない。女は黙って俺の後ろについてきた。俺は後ろにつかれるのが嫌いだ。むかついてくる。それでも女はついてくる。キレかかる。
市役所についた。玄関は開いてない。でも、出生、死亡用に裏口だけは開いていた。入った。なかには係の人が一人いた。
「あの、すいません、婚姻届ありますか?」
「はい、ちょっと待って下さい。はいどうぞ」
「あ、どうも」
婚姻届を受け取った。初めて見た。女も初めてそうだ。
「あ、あの、じゃ、俺から、書くよ」
「あ、はい」
俺は必要事項を書いた。女がこっちを見ている。先に人のを見ておいて自分は失敗しないようにしようって作戦か。汚い奴だ。そんなことされたら俺は緊張するじゃないか。こういうプレッシャーには弱いんだ。人に頼られるってのが一番嫌いなんだ。ちくしょう。あんまり俺のを見るな。あっち向いてろ。それともなにか?俺のことを知りたいのか?そういやお互いの名前知らないよな。この女名前なんて言うんだろ?でも今は聞けないな。まあいい。次に書く時に覗き見してやる。とりあえず書き終えて判を押した。
「あ、じゃ、次」
「は、はい」
女も必要事項を書き込んでいる。俺はそれを見ていた。この女、河合舞子っていうのか。舞子。か。舞子&義行。悪くない。舞子ちゅあ〜ん。悪くない。舞子。俺の舞子。俺の妻舞子。俺だけの舞子。悪くない。悪くない。悪かあない。そうだ。子供はなんて名前にしよう。女は義子。男は舞行。まあこれでいいか。そして舞子も判を押した。
「あ、あの」
「は、はい?」
「これ、名字、どうします?」
「え、あ〜、じゃ、あなたにあわせますよ」
「え、でも」
「あ、いいんですよ。別に名字なんか、こだわってませんから」
「そ、そうですか」
俺は本当に自分の名字なんかにこだわってなかった。別に舞子のことを思ってではない。できるなら変えたいと思っていた。結婚する時は絶対変えようと思っていた。でも舞子は勘違いするかもしれない。わたしのために、と。はっきり言って迷惑だ。俺は俺のやりたいようにやっただけだ。お前なんか二の次なんだ。河合。いい名字じゃないか。金杉の呪縛から解けると思うとほっとするよ。でも。やっぱり舞子のためなのかもしれない。舞子に負担をかけたくないと思ったからかもしれない。俺は人に負担をかけるのが嫌いだ。人に負担がかかるくらいなら自分が背負う。それが俺だ。全ての記入が終わり、係の人に渡した。
「あの、これ」
「はい、それじゃ今日はもうやってないんで、これ明日から有効になりますから」
「は、はい」
これで俺は結婚をしたってことになるのか。実感が湧かない。ただの紙切れ一枚じゃないか。車の免許を取る時のが苦労したじゃないか。なんなんだこれは。手抜きとしか言いようが無い。こんなのだから離婚が増えるんだ。でも俺は絶対離婚しない。お前と一生付き合う。結婚するってことはそういうことだ。多分俺のが先に死ぬだろう。それでも舞子。再婚はしないでくれよ。いつまでも俺を思っていてくれよ。俺も絶対浮気はしない。お前だけを愛し続ける。お前さえいれば十分だ。子供ができなくたってお前がそばにいてくれればそれでいい。家事はみんな俺がやる。お前は家にいてくれればいいんだ。その代わりどこへも行くな。俺と一緒にいる時以外は家の外に出るな。みんな俺がやってやるから。
女と俺は市役所を出て自転車を止めたところへ行った。舞子の家はどこの方向なんだろう?別に家まで送る気はないが気になる。でも、俺から声をかけたくない。いや、かけられない。なんとなく、かけたら負けなような気がする。それでも聞かなきゃいけないんだろうな。俺は夫だ威厳を持たなくては。
「あ、あの、家どこにあるんですか?」
「え、あ、富山です」
「あ、富山ですか?俺、一区なんです」
「あ、じゃ、じゃあ反対方向ですね」
「そ、そうですね」
舞子は俺が一緒に帰ろうとして聞いたと思ってるのか?だとしたら、なんてやな女だ。自意識過剰だ。最低だ。殺してやる。でも、そんなところ。かわいい。もう一生離さない。
「あ、あの、お名前、金杉さんでいいんですよね」
「え、い、いや、今、名前変えたから、あの、義行でいいですよ。それで、あ、あの、河合さん、でよろしいんですよね」
「あ、はい」
ちくしょう。俺は何をためらっているんだ。もう結婚した相手だぞ。舞子でいいじゃないか。舞子も舞子だ。私も舞子でいいです。ぐらいのことを言え。それに夫婦なんだ。あなた、おまえ。ダーリン、ハニーと呼び合っていい間柄だろ。それなのになぜ俺はさん付けで呼ぶ。それもなぜ名字なんだ。馬鹿か俺は。どうしようもない。だが一回言ったことを変えるってのもおかしい。まるで俺が舞子を意識しているみたいじゃないか。そう思われるのは嫌だ。俺はあくまで冷静でいたい。周りの人間に自分の想いをわからせたくない。それは舞子にだって同じだ。誰といる時でも本当の自分なんて出したくないんだ。薄情だと思われても俺はそうありたいんだ。でも待てよ。そんなこと言ってたら、次に逢えない。このまま別れてその後逢わないのか?それのどこが夫婦だ。別に偽装結婚じゃないんだ。本当の結婚なんだ。このあとも続けなくちゃいけない。次の約束しなきゃ。こんなことならさっき、住所覚えときゃよかった。
「あ、河合さん、明日も、今日の電車、乗りますか?」
「え、あ、はい」
「じゃ、その時、また」
「あ、はい、また」
舞子と俺は反対の方向に自転車を走らせた。本当は舞子の後をつけたかった。本当派舞子と楽しく会話しながら帰りたかった。でもできなかった。恥ずかしかった。言い出せなかった。そんな俺が嫌いだ。でも好きだ。人間なんかにこだわってられるか。俺だけでいいんだ。あとはいらない。俺以外の人間はみんな愚民なんだ。でも舞子は違うな。舞子だけはいて欲しい。俺の欲求をはらして欲しい。抱きしめ続けさせて欲しい。一人は嫌だ。でも一人でいたい。
そんな禅問答をしているうちに自分の家に着いた。俺は何も言わずに玄関から入っていった。いつものことだ。中には両親がいるが、ただいま。おかえり。をしたことがない。そりゃそうだ。俺はかぎっ子だったんだ。いつも誰もいなかったんだ。最近は帰りが遅くなったからいるだけなんだ。俺は精神的に変化はしてない。いてもいないんだ。誰もいないんだ。
俺は用意してあった夕飯を食べた。なにか言ってきた。適当に返した。飯を食べた。またいってきた。また返した。その繰り返しだ。結婚の報告などしない。多分騒がれる。めんどくさい。相手してられない。だから、ただ飯を食う。それだけだ
風呂に入るまでの時間。テレビを見ていた。どれもくだらない。同じ奴が出て来て同じことをしてる。つまらないのに言葉と一緒に文字を出して面白くさせようとしている。最低だ。俺に作らせてみろ。もっと面白いもの作ってやる。
風呂に入った。俺は結婚したのか。まだ現実味はない。実感が湧かない。隣に舞子はいない。背中を流してくれるやつはいない。背中を流すやつもいない。髪を洗ってくれるやつがいない。髪を洗ってやるやつもいない。ただ湯船で百数えることしかできない。ただ洗顔することしかできない。換気扇の音がむなしく響いている。
「っやすみ」
俺が両親にする唯一のあいさつ。風呂から上がる。自分の部屋に上がる。その前にこれだけは欠かさない。マンネリ化した儀式。そうとしか言えない。
自分の部屋。一番落ち着く。誰にも邪魔されない。誰もいない。でも周りにいる。大きな音は出せない。騒げない。一人静かに時を過ごす。それでいい。それがいい。今日は何もする気が起きない。ただ寝るだけ。ベットに横になる。何もすることがない。舞子のことを思い出す。そういや今新婚初夜なんだよな。本当なら舞子を抱いてるんだよな。目を閉じた。想像する。舞子が全裸でベットに歩いてくる。欲情した。左手でパンツを下ろした。右手で握った。上下させた。想像する。舞子に咥えられてる。舞子に入れてる。体位を変える。舞子が動く。吐き出しそうになってきた。ティッシュを使うのもめんどくさい。左手でパンツを戻した。吐き出した。目を開ける。誰もいない。虚無感。なにしてるんだ俺は。これが新婚初夜の夫のすることなのか。ちくしょう。情けない。やりたい。舞子とやりたい。女とやりたい。こんなのもういやだ。もっと気持ちよくなりたい。はやく入れたい。体験したい。女なら誰でもいい。穴を貸してくれ。俺に入れさせてくれ。でもプロは嫌だ。あくまでも俺を好きなやつ。俺の好みのやつ。俺が好きなやつとやりたい。舞子。明日また逢おうな。目を閉じる。べたべたしてる。ま、朝になれば乾くだろう。疲れた体でそのまま眠りについた。
THIS IS ONLY THE BEGINNING
ANOTHER POINT OF VIEW “女の場合”
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