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投稿者:
高山 比呂 @ ppp-y082.peanet.ne.jp on 97/11/28 02:15:46
In Reply to: 第5回メッセージ文コンクール
posted by バシル(高山さんの代理) @ ShibataK-dos2.s.fukuoka-u.ac.jp on 97/11/27 10:57:34
限りなく白を基調にした部屋。
黒いテレビが際立っている部屋。
彼女の部屋。
月並みでいやだけど、いい香りがする部屋。
彼女がそっとドアを閉める。
密室。
今日は、彼女の両親が結婚式のために出かけている。って、なんかドラマや漫画の中だけかと思っていたら、実際にこういう事ってあるんだね。僕は、休日に留守番なんかしたことなんて一度もないな。平日は共働きのせいか、留守番、ひとりでいることが多いんだけど、なぜか休日はないな。っていうか、両親のふたりっきりって見たことないな。しかも、弟が、部活で遠征ときたもんだ。まさしく、お決まりの黄金パターン。こういう設定って、ふたりを進展させるためのイベントって感じだよね。
ドアを不器用にノックする音。
もう、誰かのおかえり?僕はまだ、ただいまなんて言いたくないよ、言えないよ。
ドアを開く彼女。
あいさつをしようと喉を鳴らす僕。
7分の2くらい開いたドアから入ってきたのは、
白い猫だった。
「ワイト、こっちよ」
僕を迎え入れた時よりもやさしい笑顔で、両手を広げ、猫を招く彼女。
あいさつのタイミングを失った僕。
ニャ〜ンとでも鳴いてみようかとも思ったけど、
やめておいた。
ただ彼女と猫を見守るだけ。
「ほ〜ら、君元君でちゅよ〜」
両手で猫の両脇を抱き、二足歩行の形態にして、左、右と揺らしながら近付いてくる彼女と猫。
僕は猫が嫌いなんだけど、っていうか、うちの家系って、みんな猫が嫌いで、毎月第一日曜日には必ずネコヨラズを家の周りに撒いていたりもするんだけど、ここは猫好きのフリをしなきゃまずいな。
僕なりに可愛がってみる。じゃれてみる。
でも、その様子は、普段から猫と接している彼女から見ればおかしく映るようで、
「君元君って、おもしろ〜い」
って、指差されて笑われた。
猫嫌いで、得したような、損したような。
でも、彼女笑ってくれたし、得したってことになるのかな。とりあえず、うちの家系に感謝。
僕が、猫とじゃれているフリをしているのを、楽しそうに見つめながら彼女は立ち上がり、部屋を出た。
トイレットマン、かな?
しばらくの間、僕は猫を羽交い締めしていた。
ガチャガチャ、おもちゃ箱を運んでるかのような音が、ドアの向こうから聞こえてきた。近付いてきた。
ドアが開く。まず彼女の左足が入り込む。そして、左肩、左半身、お盆と一緒に右半身、全身が入り込んだ。
僕は手伝いたかったけど、手伝わなきゃいけなかったけど、猫を押さえるのに必死でそれどころじゃなかった。
コーヒーの匂いが密室に充満してる。
猫は、平皿に浸された牛乳を舐めてる。
僕はコーヒーも嫌いだ。どうにか飲めるのはマックスコーヒーぐらいなもんだ。でも、これはうちの家系のせいではない。うちの家系でいけば、僕はコーヒー好き、コーヒー通でなくてはならない。異端児ってことだ。このことは、早く彼女に伝えておくべきだったな。
それでも飲めるフリをしてみる。
ミルクも砂糖も入れず、ブラックで飲んでみる。
苦い。まずい。でも、言葉に出せない。
とりあえず、
「う〜ん、この味は、アフリカンでしょ?」
軽いギャグを呟いてみる。
「ちがうよ〜、モカだよ〜」
猫の時以上の笑顔で、僕につっこみを入れる彼女。
2連勝。
「これ、見る?」
彼女は、アルバムを取り出した。開いた。
赤ちゃんの頃の写真。
正直言って、このたぐいの写真はコメントしにくい。誰のを見ても同じに見える。誰のを見てもこの言葉しかかけられない。
「かわいいね」
3歳くらいの写真。
この頃になれば、区別できるようになる。コメントもしやすい。
「これもかわいいね」
ここで言うかわいいと、さっきのかわいいは違う。今回のは本心からだ。彼女の場合、今よりかわいい。今がかわいくないってわけじゃなくて、この頃の方が、トータルバランスとして、かわいいという言葉が一番しっくりきてる。別に、僕がロリコンってわけじゃない。と思う。
以降、今までの写真を見た。
写真の数だけ、かわいいの言葉を贈ったような気がする。
彼女はアルバムを閉じた。
沈黙。
静寂。
妙な空気がふたりを取り巻く。
今、行く時か。
「音楽、聴かない?」
彼女は立ち上がるとCDをかけた。心地よい風のようなENYAの曲が流れてきた。
この曲じゃ、僕は狼になれない。おだやかな気持ちになってしまう。できることといったら、彼女の膝を、枕にかえることぐらいだろう。
「ね、対戦しよ」
彼女は、僕に2コンのコントローラーを渡すと、ぷよぷよを始めた。
僕は、自慢じゃないが、かなりうまい。彼女にハンデをあげても余裕で勝てる。でも、たまに負けてあげるのが男ってもんだよね。あとは、いかにわざとらしくなくするかにかかってるんだ。
しばらくぷよぷよを続ける。10回ぐらい対戦をし続けた。
「あ、そうそう、これもおもしろいの」
ソフトを入れ替えようとする彼女。
僕の心は、対戦によって熱くなっていた。狼にだってなれるくらいに。
ソフトを入れ替えて、こっちを向いた彼女を抱きしめ、その唇に突然キスをした。
CD−ROMを読み込む音がB.G.Mになっていた。
読み込みを終えた頃、僕はキスを終えた。
彼女の目には涙が、
彼女は泣いていた。
気まずい雰囲気。
でも、僕たち付き合っているんだよね。こういう事を望んでいたんじゃないの?だから僕を密室に呼んだんじゃないの?なんにしても謝らなきゃ。
「ごめん。本当にごめん。いや、あのさ、ともかくごめん」
彼女は泣きやまない。
「もうこんなことしないからさ、ね、ゲームの続きしようよ」
僕が差し出したコントローラーを受け取る彼女。
無言でゲームを続けるふたり。かなり不気味だ。
とりあえずゲームに負けてあげることにした。
やっと笑顔を、言葉を取り戻した彼女。
でも、さっきのことには触れようとしない。僕も触れられない。
そのままふたりは夕方までゲームを続けた。
「あ、そろそろ弟が帰ってくる時間だ」
彼女が唐突に切り出した。
「あ、じゃあ、僕、帰るよ」
僕は彼女の家を出た。
結局僕は、キス1つと、ぷよぷよ14勝しかできなかった。
−have an abortion−
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