真面目なエッセイです 『ビデオ』



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投稿者: 柏木耕一(旧・日光) @ p14-dn02kuki.saitama.ocn.ne.jp on 97/11/25 17:29:08

AV

と書いて「オーディオヴィジュアル」と読めば正解である。僕は絶対「アダルトビデオ」と読むが。

 まあ、そういう話である。

 ところでビデオの普及にはこのアダルトビデオが一役買ったらしいが、さもありなん、確かにエロ本よりは性欲のぶつけ所が明確である。エロ本は何となく「これは二次元だ」という感覚が働くが、ビデオだと「いや実際

ヤってるわけだし」

と無理にでも自分を納得させることができる。
 お役に立つのである。
 しかしこれほど入手困難なものって、ちょっと他にないと思うのは私だけだろうか? 皆さんどうしてます? 普通レンタルでしょ? 私は数本購入したことがあるが、以前彼女にばれて全部捨てられた。あのときほど自分の女が恨めしく思えたことは他にない。
 閑話休題。
 まあ、とにかく、レンタルを基準として話を進めよう。

 しかしあれほど目的が

そのものズバリ

なものは他にない。
 ただひたすらに

そのものズバリ

を求めてアレを見るわけだ。

「時間とは何か」

とか言いながらアダルドビテオを見るヤツはあんまりいないと思うし。

 だからこそ。あれを借りるときには、言いようのない羞恥心がまとわりつく。あれを借りるということはつまり、

「これから一発ヌきます」

と公言するも同じである。調子に乗って一気に五、六本借りてしまうと、

「これからたくさんヌきます」

と言っているようなものだ。さらにはちょっとした好奇心が働いて、『犬猫パラダイス』なんて借りてしまうと、

「これからヌきますがちょっと変態です」

と皆に知らしめる羽目になってしまう。これはいけない。私の失敗談としては、ちょっと他にないぐらい悲惨なものがある。
 それが次だ。

 その日私は、ウキウキしながら近所のレンタルビデオ屋に足を運んだ。知り合いのオニーサンがそこでバイトを始めたというのである。今まではちょっと恥ずかしかったが、これで

エッチ見放題

かと思うと嬉しくて涙が出そうになった。当時はまだ純情ボーイだったのだ。
 自動ドアが「んガー」と間抜けな音をたてて開き、ひやっとした空気が体を包む。奥のレジからオニーサンがひょっこり顔を覗かせ、目でGOサインを送っていた。ここでもう私の頭の中は

「待っていておくれ僕のハニー達……」

状態になり、すっかり前後不覚、慌ただしくそっちのコーナーへ行く。

 凄いね。あのコーナーは。異様な本数がある。
 とりあえず右も左もわからない私は、「店長お薦め」とラベルの貼られたビデオを一本手にとった。題名は今でも覚えているが、とても恥ずかしいのでここでは書かない。とりあえず基本に忠実な

ナースもの

だったことは明記しておこう。
 さて、これだけを借りたのでは、それこそ

「これからヌいてやりますよ」

的態度がミエミエなので、洋画コーナーで観る気もない恋愛モノを手に取りレジへ。
 心の中はパラダイス。よっしゃあ俺やりましたこれからヌきます状態ではある。
 しかし。地獄はここにあった。
 私がビデオをことんとレジに置いた瞬間、オニーサンはやたらクソでかい大声で

「はいスケベ一丁!」

と叫んだのである。
 私は初めて殺意というものを覚えた。
 しかしオニーサンの攻撃はこんな甘っちょろいものではなかった。まずタイトルを読み上げやがったのである。

「『潜入淫乱病棟・美人ナース調教劇』っスね!」


 やめてくれ頼むお願いぷりーづと心の中で訴え続けるも、ンなもん聞くオニーサンではない。

「いやーこりゃ女優の顔がイイよ」


「この緊縛シーンなんかいかにもスケベですぜ」


 猛攻。グッバイチャンプと響く何かが、私の中を去来していた。
 私は客の冷たい(と言うか痛い)視線を一身に浴び、そこを後にした。

 この事件以来私は、AVを借りることができなくなった。トラウマというヤツである。でも買ったことはある。通販で。

「魅惑の熟女五十連発」

とかいうヤツだったが、実際には

四十がらみの太ったおばちゃんのヌードを、五十連発で見せられる

というまるで拷問のようなビデオだった。二発目でビデオを割る。

 ほんと、いい思い出がないのよ。ちぇっ。