不定期連載幻想小説 『池袋戦記』 第一話



[ このメッセージへの返事 ] [ 返事を書く ] [ home.html ]



投稿者: 柏木耕一(旧・日光) @ p07-dn02kuki.saitama.ocn.ne.jp on 97/11/23 22:29:29

                  第一話
                〜アレなナニ〜

               ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 西暦199*年、日本。いつも通り平穏な東京・池袋に、一人の少年の姿があった。黒いハイネックに黒いソフトジーンズ、さらには黒いジャンパーに黒いブーツと、全身を黒一色でこり固めている。本人はとても気に入っている格好なのだが、ハタから見れば

ただの変態


であった。
「……ちょっと、早く来すぎちゃったかな」
 雑踏に紛れてしまいそうな程の小声で、少年がぽつりと呟く。ある女の子との待ち合わせでここに来たのだが、予定より早く着いてしまったのだ。懐中時計の針は七時三十分を示している。

ちなみに待ち合わせの時間は十時だ。


 女の子との待ち合わせ→嬉し恥ずかしらぶらぶデート→

ヤレる


という三段活用を頭の中で構築していた少年は、先走りすぎて二時間半も早く待ち合わせ場所に現れてしまったのである。足下に転がった煙草の本数から考えて、これでも一時間は待ったものと思われた。
 と、駅の人混みの中から、幼い男の子が一人、少年に向かって駆け寄ってくる。
 そして、非難がましい視線で少年を睨み付けると、半ば独白するような形でぼそりと言う。
「自分の家の前でも捨てるのかな」

「んなわきゃねえだろこのクソガキ!!」


 絶叫と共に繰り出された後ろ回し蹴りは、少年の頭をかすり、その背後にいた

全く関係ない中年男性を直撃した。


「チッ」
 頭の色々な穴から血を流して倒れる中年。少年は軽く舌打ちすると、突然脇の下から警棒を取り出し、それにケチャップをかけた。呆然として立ち尽くす男の子の手にそれを無理矢理押し込めると、思いっきり息を吸い込み−−

「通り魔だ!」


と絶叫する。
「何ィ!?」
「通り魔だと!!」
「オ○ム!?」
「またか!!」

「営団ばっかり狙わないで、たまにはJRも狙ってくれよ!!」


 ……様々な声が交錯する。人の群に埋没する男の子の悲鳴だか罵声だかをBGMに、少年は今日のデートのプランを念入りに復習していた。
 とりあえず池袋と言うことで、サンシャイン60は外せない。水族館とプラネタリウムのどちらか−−おそらくは水族館−−を選択することになるだろう。本音を言えばプラネタリウムの方が

悪戯しやすくていい


のだが、まだ彼女とデートするのは三回目なので

お楽しみは後にとっておく


ことにする。
 そしてそれが終わったら、ナンジャタウンでウハウハ……いや、二人で楽しく遊ぶ。ちなみに彼の頭の中では

二人で遊ぶ=ウハウハ


なのだが。
「……そしてウハウハの後に……」
「あのー」
「!?」
 背後から声をかけられて、思いっきりビビりまくる少年。慌てて後ろを振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。ショートの髪を肩口で綺麗にまとめて、赤い地味なタータンチェックのコートとのマッチを狙っている(のだろうと少年は推測した)。背は高い−−170ある少年と、ほぼ同程度だ。この場合少年の方が背が低いという説もあるのだが、それは敢えて無視することにした。
 何にしろ、少年の関心はそんなところにはなかった。

(イケてる!)


 そう。結構な美少女だったのである。
「武藤聡志さん、ですよね?」

「貴様、何故俺の名を知っている」


 何かやたらと物凄い勘違いをする少年−−武藤聡志を無視して、少女はぺこりと一つおじぎをして見せた。そして顔を上げると、満面の笑みを浮かべる。
「初めましてー☆ 私、夕城美朱って言います」
「はあ」
 はきはきとした少女とは対照的に、間の抜けた返事をかえす武藤。初対面の人間がいきなり出てきて突然自己紹介をかましたのだから、呆気にとられるのも無理はないが。
「しろちゃまのお友達、だよね?」
「しろちゃま?」
「そ。白岡たつきのこと」
 白岡たつき……その名を知らないはずがない。今待ち合わせしている相手こそ、そのたつきなのだから。
「ああ、まあ、友達だけど」

(今はな)


という邪悪な呟きを心の中に押しとどめると、武藤は考えていることとは全く別の質問を美朱にぶつけた。
「で、君は?」
「あたしも、しろちゃまのお友達」
 この瞬間武藤の頭の中には、

3P


という単語が浮かんだりしたのだが、そんなことはお首にも出さない。
「へえー。でも、よく俺のこと知ってたね」
「うん、しろちゃまからいっつも話聞いてるから」

(友達にも俺のことを話すなんて……可愛いヤツ)


などと不謹慎な考えを続行しつつ、
「それで? 俺に何の用?」
 と、尋ねる。美朱は何故かやたらと呑気な表情で、あっけらかんとこう言った。

「しろちゃまが拉致られたの」


 次の瞬間、武藤の脳裏に

拉致監禁暴行調教そして発情メス猫女へ大改造


という5hitコンボのコマンドが浮かんだが、さらにその次の瞬間

(それは俺の役目だ!!)


と心の中で絶叫する。
「み、美朱さん!! たつきさんは、一体誰に拉致られたんだ!」
 肩を掴んで前後に揺さぶりつつ、喚き散らすように尋ねる。あまりの速度に

肩関節脱臼


しそうになりながら、美朱は、
「よ、よっちんだよぉ〜」
 と答えた。
(よっちん…………

健介か!!)


 全く関連性のないあだ名から、武藤はすぐさまその男の名を連想した。
 清水健介。武藤と同じ学校に通う、いわゆる友人である。もっとも最近は、健介がある女性にふられたのをいいことに、武藤が散々

健介を精神的に嬲った


のであまり顔を合わせていないのだが。
(あの野郎、仕返しのつもりか!!)
「で、美朱さん、健介がどこにいるか、わかる!?」
「うん。池袋GIGOを占領してたてこもってる」
 その言葉を聞いたと同時に、武藤はその場から駆け出していた。
(たつき……待ってろよ!! 

おまえの初めては俺のモンだ!!)


とりようによっては凄まじく犯罪的なことを考えながら、武藤は朝の池袋を疾走した−−。

 続く

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 ごめんなさい、疲れています。