愛の十五分劇場 『相川健太郎の場合』



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投稿者: 柏木耕一(旧・日光) @ p03-dn01kuki.saitama.ocn.ne.jp on 97/10/24 17:13:41

 何か今一つ釈然としないものを感じつつ、俺は首をかしげながらも自宅に入った(何か変な表現だな)。
「おっ、健兄ぃ、おかえりぃ〜♪」
 どこか底の抜けた声が俺を出迎える。廊下の奥からぱたぱたと小走りでやって来たのは、赤を基調にしたタータンチェックのワンピースの上に、ミルク色(つまりは濁った白)のカーディガンを羽織った、年の頃十四、五の少女……つまりはまあ、俺の妹であったりするわけだが。
 こいつの名前は相川思音(あいかわ ことね)。今年で十五になる、正真正銘俺の妹だ。ちょっと栗色が入った髪は、頭の両脇のところでシニョンにしている(いわゆる「お団子」というやつだ)。兄が言うのも何だが、少なくともこと容姿に関しては不自由していないようだ。俺は……まあ、いい。
「思音、さっき京介のヤツが入ってこなかったか?」
「うん。今は京兄ぃの部屋にいるよ」
「部屋ァ?」
 何であいつの部屋があるんだよ。ここは俺の家だぞ(名義的には違うが)。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「何がだよ」
「ん、京兄ぃね、家庭の事情で、ウチに住むことになったんだよ」
 ……ほほ〜う。
「……そういう大事なことを、何で兄である俺に報告しねぇんだ?」
「あっ、痛い痛い、痛いってばマジそれ痛い!! あ、あ、グリグリするのはヤメっ!」
 俺は思音のこめかみを、人差し指の第二関節で『グリグリ』と押した。
「ほ〜ら富士山見えるかァ〜(グリグリグリグリ)」
「み、見えるワケないってば、そんなモン!」
「じゃあ見えるまでだ、あと六十秒もすれば見えんだろ(グリグリグリグリ)」
「あっ、う、嘘! 嘘です! 見えます、富士山見えます!!」
「悲しいぞ妹よ、いつの間におまえは幻覚を見るようになったんだ。おしおきとしてグリグリ追加あと百五十秒(グリグリグリグリ)」
「あーーーっしかも当社比一.五倍ぃーーっ!?」
「……ねえ、健太郎……君達ひょっとして、毎日そんなことやってんの……?」
 何故かひきつった笑みを浮かべて、京介はこちらをじっと凝視していた。
 まあ、だいたい毎日だな、この程度は……。

 十五分終了・続く