愛の十五分劇場 『相川健太郎の場合』



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投稿者: 柏木耕一(旧・日光) @ p15-dn01kuki.saitama.ocn.ne.jp on 97/9/30 19:52:09

 先輩に……会いに?
「先輩って……俺?」
 自分を指さして尋ねる俺の姿は、ひょっとしたら相当間抜けだったかもしれない。でも聞かずにはいられなかった……この子が、もし、俺を捜してくれていたのだとしたら−−。
 −−そんなに喜ぶべきことでもないか。ま、ちっと嬉しい気はするけど。
「はい。相川先輩のこと……待ってました」
「−−なんで?」
 俺の問いに、しかし彼女は答えない。ただ、じっと黙ってこっちを見ているだけだ。
 昼休みはそろそろ終わる。いい加減屋上から出ないと、授業に間に合わなくなる。普段なら遅刻なんて馬鹿馬鹿しくてやってられないけど、ずっとこうしていられるのだったら、遅刻もいいかな……とも思えた。
 悠子はこちらの眼の中を覗き込むようにして立っている。俺はさしずめ捕らえられた獲物か、蛇に射すくめられた蛙か−−全く身動きできず、ただ時間が流れるのを肌で感じているだけだ。
 −−キーン コーン カーン コーン……−−
 チャイムが鳴った。今頃校舎の中では教室に戻る生徒達が全力疾走しているところだろう。生徒にナメられてる古典の柳田の授業だったら、まだまだ集まりは悪いかもしれない。
 ……んなこたぁどうでもいいんだ。
「−−悠子、ちゃん(会話の中ぐらい、『ちゃん』はつけた方が礼儀だと思う)……授業、始まるぜ」
「……待ってました……ずっと……」
「え?」
 この子、本当にアタマおかしいのかな?
 俺は思わず首を捻りそうになった瞬間−−。

「け〜〜んたろ〜〜ぉ〜〜!!」
 突然、澄み渡った青空のような(ただし青空とはどこか底が抜けているものだが)声が屋上に響きわたった。
「……?」
 ぐるっと首を巡らせ、たった一つの出入り口の扉に視線を向けると……。
「け〜んたろお〜っ!! ひっさしぶりだなあ〜!!!!」
「……」
 イイ雰囲気をブチ壊しまくったその人物は、何とも『さわやか好青年』な野郎だった。制服着用のはずのこの学校で、何故か私服を身につけている。サーモンピンクのシャツにインディゴブルーのジージャン、ミントブルーのデニムパンツ−−ちょっと悔しいぐらい似合いまくっているのが、この男の嫌なところだろう。
 しかし−−久しぶりと言われても……。
「あんた、誰?」
「はっ?」
 『さわやか好青年』の顔が、ちょっとないぐらい馬鹿みたいな驚愕を現していた……。

 続く