リレー小説「土星」第20回



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投稿者: さすらい @ 133.65.41.10 on 97/9/25 12:39:59

(もうすぐだ・・・もうすぐヨーコの乗っているサイヴァーに近づける・・・)
僕はそう思うと、拳に力を込めた。止められないふるえがわき起こっている。チャンスは1回しかない。それさえも成功するかどうか・・・・。
船体の黒光りが、実眼で見えるくらいになってきた。
「アリス! 適当な距離まで行ったら反転だ!!」
「わかりましたわ!!」
アリスもハンドルを握って前を向いたまま、険しい表情をしている。
なぜか頬には冷や汗まで・・・・・・。
アリスの方に気を取られているすきに、船体は異様に近くなっていた。このままでは反転できない!!
「アリスちゃん、近すぎっ!!」
「・・・・・はい・・・・」
そういいつつも、操作法は以前と変わっていないようだ。
彼女の顔には前よりももっと冷や汗が流れていた・・・もしや・・・。
「・・・アーリスちゃーん・・・・減速反転できるの?」
「でっきませーん☆」
ひきつり笑いで聞いた僕に、アリスはにっこりと答えた。しかも、こっちを向いて、片手をあげて。
「うわっ・・・ばかっ・・・」

どどぉぉぉぉぉぉぉん


現状を把握する暇もあればこそ。生々しい衝撃が僕たちを包み込んだ。
「ってぇ・・・・」
「きゃー、すみません〜」
したたか頭を打ち付けた僕は、座り込んで半泣きなアリスにため息をついた。
・・そうだ、こんなことやってる場合じゃない。黒い船体とぶつかったのだから、このまま乗り込めるはずだ。
前方をよく見ると、床に男が倒れているのが見えてた。どうやら、操縦していてもろに衝撃が来たらしい。
いまがチャンスだ。もうしばらくすれば、あの男も立ち上がるだろう。その前にけりを付けなくては!!
「アリス、ここで待ってて」
「ええっ、、、私もいきますぅ」
そういうと、アリスはうるうるした瞳でこっちを見てきた。うっ、こういうのに弱いんだよなぁ・・・・・。いかんいかん、女の子を危険な目にはあわせられない。
「だめっ! 僕が戻ってきたらすぐに発進できるようにしといて、ね?」
「はいぃ・・・・・」
そういっても僕はにっこり笑うと、銃を片手に飛び乗った。
そして、振り返りざま、こういった。
「僕が打たれたら、すぐに逃げてね!!」
「っ!! そんなっ・・・」
アリスの顔を見ずに振り向くと、倒れている男に銃を向けた。
手が震えている。さっき打てなかった僕に、この引き金を引く勇気など残っているのだろうか。わからない。でもやるしかない。ヨーコを救い出さなくては。あんな子でも、やっぱり大切な幼なじみなんだ。
男のからだがぴくりと動く。
手が震え、自分の武器を取ろうとしているようだ。いけない!!
「動くなっ!!」
男の動きが止まる。自分でもこんな声がでるとは思っていなかった。とても押し殺した声。いままでの自分では出せなかったなにかだった。
呆然としてしまったのがいけなかった。僕は、こいつのほかに誰かいるだろうとは思いも寄らなかったのだ。
「・・・そのせりふ、そっくりそのままで返すぜ」
「!!」
「おっと・・・・動くなよ。銃口はしっかりおまえの方を向いている」
振り返りそうになった僕に、声が被さる。
絶対絶命、といったところか。前に倒れていた男も、頭を降りながら立ち上がった。
「手を挙げな・・・銃はポッケにしまってな」
言われたとおりにするしかない。子供だと思って、銃を取り上げられなかっただけましか。
「なぜ、この船に乗り込んだ?」
「・・・ヨーコを・・ヨーコを返せ・・・」
必死の思いで僕はこれだけ言った。そうさ、僕はこのために来たんだから。弱い自分を押さえてまで、ここまで来たのだから。
僕はしっかりと口を結んだ。意志の強さを見せるため。
しかし、男から返ってきた答えは予想外のものだった。
「ヨーコ?? そんなやつはいないぜ」
「なんだって!? 彼女がいない??」
思わず、振り返ってしまった。銃口を見てちょっと後ずさる。しかし、視線だけはそらさなかった。
「ああ、いない。ああ・・博士の娘か。あんな重要人物がここにいるわけないだろ」
そんな・・・決死の覚悟できたというのに。ここにはいない!? じゃあどこに・・・・。
ああ、もうそんなこと考えてもしょうがない。ここで殺されるだけだろう。つれていかれるほどの価値は、僕にはない・・・。
アリス・・・・。彼女だけには無事に帰ってほしい・・・・。
「ほら、船に帰りな」
「・・・へ?」
我ながら、素っ頓狂な声を出してしまった。だってそうだろ、死ぬ覚悟をしてたっていうのにさ。
「俺たちは見張りだ。賊でもないやつを殺せるか。死にたくなきゃ、さっさと行け」
「うん・・・・」
釈然としないまま、僕はアリスのいる船へと移った。
「お帰りなさい。無事でしたのね・・・あら、ヨーコさんは?」
「いなかった・・・・」
「まぁ・・・・・」
僕は、うつむくしかなかった。なんだか、訳の分からない衝動が僕の目をぬらし始めていた。
「・・とりあえず、帰りますわね」
「ああ・・・」
そういうと、アリスは元気よくアクセルを踏んだ。僕が落ち込んでるのを見かねてのことだろう。僕たちの船はがくんと動き始めた・・・・。

□ ■ □ ■ □

ワープした僕らは、リンギーのそばまで来ていた。
シュウさんの船の姿はもう見えない。
「でも・・・ヨーコさん、どこにいらっしゃるんでしょうね・・・」
「わからない・・・振り出しにもどっちまった」
わからないことだらけだ。コキアはどうしているだろう。シュウさんは大丈夫だろうか? ブラックドラゴンの砲撃を受けているのが最後だったっけ。
ああ、もう頭が鈍くしか動かない。何で、ヨーコを守ってやれないんだ、僕は。
そんなことを鬱々と考えている僕の耳に、アリスの声が飛び込んできた。
「まぁ・・・あれみてください!!」
やけに興奮している。僕はゆっくりと頭を持ち上げると、彼女の指す方を見た。
目の前に広がるものは、ブラックドラゴン。攻撃態勢から通常型に戻っている。
中央の司令室のところに腕組みして立っている男の姿が見える。さっきあった、劉ってやつだ。
「彼がどうかしたの?」
僕がぼんやりと答えると、アリスは怒った目つきでこっちを見てきた。
「違います!! もっと奥ですよ・・・ほら」
言われたとおりに目を凝らして、男の背後を見た。何かエンジンのようなものが見える。
幾重にも重なり、輝いている円。そこに法則なく走っている管。その中心には、黒い星が見えた・・・・・。
・・・・!! 違う、あれは星なんかじゃない。人だ!!
「ヨーコ!!」
思わず叫んでしまった。目の前にあるガラスが、いまはどうしようもなく邪魔に思える。
「やっぱり・・・・」
「凄いよ、アリス。でも・・どうしてあれがヨーコだって?」
「私も昔・・まぁ、いいじゃないですか」
そういうと、アリスは暗い表情を無理に笑わせた。もう聞かない方がいいみたいだ。なんだか、とってもいやな思い出らしいから。
「ああ・・・じゃあ、あっちに向かって!!」
「それはできません」
「どうして!?」
静かに、しかしきっぱりとした表情で言ったアリスに、僕は心底疑問を投げかけた。
「あんなにそばにいるのに・・目の前にいるのに・・・・」
「落ち着いてください」
怒鳴りそうになった僕を、アリスは鎮めた。
僕は、ちょっと恥ずかしくなって口をつぐんだ。憤りは消せそうになかったが。
それを見たアリスは、静かに話し出した。
「考えてもみてください。さっきのシュウさんとの戦闘を見ても、私たちだけじゃとうてい勝てません。貴方がヨーコさんを助けたいのなら、もっと落ち着いていかないと。無駄に死んではいけないでしょう?」
「・・・・・・・」
「それに、私はあの船に行きたくないんです。すみませんけど、私はついていけません・・・・」
確かにそうだ。勝てっこない。アリスの言うことは筋が通っていて・・・・。
しかし、このいま沸き起こっている衝動だって無視できないものだ。
でも、アリスがこんなにつらそうにしているなら、いまは・・・・。
「わかった。戻って策を練ろう・・・」
「・・・はい!」
ほっとした表情で、アリスが操縦を再開する。
僕は、視線をブラックドラゴンの司令室に残したまま、その場を立ち去った。
いつかきっと助けに行く、と誓いながら・・・・・。

□ ■ □ ■ □


「全く、こんなところであの坊やに出会うとはな・・・」
「全くだ、相棒。本部に連絡しなくては」
「ああ、わかっている」
男は、修理中の相棒にそう答えると、無線機のそばに歩み寄った。
マイクを取り上げると、ピーという音が聞こえた。
送信ボタンを押さえて、耳に構える。
「・・こちら巡視船124号。ただいまβと接触しました。・・・はい。しっかりとは確認しませんでしたがαも同情していた模様です。・・はい、はい・・・・引き続き監視を続けます」
かちゃり、と音を立ててマイクをおく。
「どうだった?」
修理をしながら男が聞く。報告をした男は肩をすくめた。
「どうもこうもない。接触したんだったら、見張れとさ」
「まったく・・ひらはつらいよな」
「まったくだ・・・・」
黒い船体はまだ動き出す気配を見せなかった。


あうぅ、、、記念すべき第20回を、こんな新入りがやって良かったのでしょうか(−−;;)
しかも、なんだか短いし。小説の傾向、ってものがないし。
これで、どなたかがまた書きたいと思ってくだされば、光栄ですね。
ではでは。