不定期連載「廣瀬真之」其の二の二



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投稿者: イド・ダイスケ(だい) @ kuki3DU15.stm.mesh.ad.jp on 97/9/24 22:16:32

「ただいまぁ♪」
 自宅の扉を開け、中へ向かって真之は努めて明るく声をかけた。
 返事はない。
 しかし、それにめげた様子も見せず、敷居をまたぎ中へと入る。
 そのとき、後ろ手で扉を閉めるが、無意識のうちに音を立てないよう、細心の注意を払っている。
「よっこいしょっと」
 その努力は報われ、ほとんど音を立てずに扉を閉めることに成功し、玄関ホールに腰を下ろす。玄関と玄関ホールには、かなり広めのスペースがとられていた。玄関ホールに腰を下ろしたのだから、当然真之は玄関とつながる廊下に背を向けることになる。
 いつまでたっても慣れそうにない革靴を、手で引っ張るようにして脱ぐ。
「なに年寄り臭いこといってるのかしら」
 ……!!??……
 右の靴を脱ぎ、左に手をかけたところで、完全に硬直する。
 完全に不意打ちだった。最初に声をかけたとき、返事がなかったことで、勝手に事は居間に入ってからと決めつけていた。よって、まだ心の準備が整っていない。いや扉を開けるまでは覚悟も決めていたのだが、今では緊張の糸も弛んでしまっていた。「やあ……ただいま……」
 硬直してから、きっかり2秒後にゆっくりと振り向き、肩越しに微笑む。顔では微笑んでいても、指先が細かく振るえるのを押さえることはできなかった。もっとも、幸いなことに彼女の位置からでは、死角になっている。
「お帰りなさい」
 真之の背後に、音もなく現れた沙耶は、穏やかな表情で、しかしまっすぐに真之を見つめている。
 ……こんな顔してる時の沙耶さんは、大人っぽく見えるなぁ……
 少々、逃避的な考えを浮かべながら、必死で感情を整える。背中に冷たい汗が滑り落ちた。
「そんなに、年寄り臭いかなぁ。こういう声ってつい出ちゃ……」
「まずは、言い訳を聞こうかしら」
 どうにか、気持ちを奮い立たせ、やっと発した声は、半ばで遮られる。
「えっ!あのいや、だからね……」
 声がうわずり、目が泳いでいる。電車で揺られている時から、何十通りも考えていた言い訳は、すべて忘れてしまっていた。
「いや、実際無理だったんだよ。今日は車が故障しちゃうし、駅は混んでるしさ。だいたい僕は、ほら、まだ入ったばかりの新入教員だから、いろんなこと覚えさせられたりするんだよ。今日も先輩の先生に嫌みを言われちゃったし……。これでも、目一杯急いだんだよ。でもさ、やっぱり自転車じゃ遠いんだよ、駅までは……」
「それで、約束の時間は?」
「五時半です」
 堰を切ったように、夢中で喋る言い訳の半ばで、静かに、だがはっきりとした声に遮られた。真之は思わず、姿勢を正して答えた。
「今は、何時?」
「うっ、その、……七時です……」
 思わず、沙耶から目を逸らし、消え入るような声で答える。
 その視線を覗き込むように、沙耶が続ける。

続く

ああ!全然途中でおわってしまった(汗)
このつづきは、速攻で書きたいの思いますので、見捨てないでねぇ(^。^;