不定期連載「廣瀬真之」その二



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投稿者: イド・ダイスケ(だい) @ kuki5DU09.stm.mesh.ad.jp on 97/9/23 21:22:51

公共施設

列車がついたばかりの駅には、人が溢れていた。
思い思いの方向へと家路を急ぐ会社員や学生の中に混ざって、真之の姿があった。小さな鞄を脇に抱え、急ぎ足で改札を抜けると、そのまま駅ビルの中を通過し出口へ進む。
……うーん、結構遅くなっちゃったなぁ……
外に出ると、すでに太陽はその身の半ばを隠していた。街が赤く染まっている。
……何だって、こんな日に車が使えないかなぁ……
懐から時計を出し、一瞥する。すでに時間は六時を回っていた。歩調をさらに速め駐輪場まで行く。
前後の車輪につけた鍵をはずすと、勢いよく発進させる。
……怒ってるんだろうな。やっぱり……
いつもは、優しげな面立ちで、歳よりも二、三歳は若く見られる童顔なその顔は、今は引きつって見えた。やや垂れ気味な眼が細められ、苦笑しているようにも見えなくはない。
「しかし、背広で自転車というのも締まらない話だね。まったく……」
 思わず、声に出して、ぼやきながら天を仰ぐ。空には雲一つなく夕日の紅が刻々と濃くなっていくのが感じられた。
 少し進んだところで、一旦は自宅へと向いた車輪を、駅前の通りへと転じさせる。通りに沿って進んで、ほんの少しのところに目的の物はあった。
「おばちゃん。お団子三箱くれる?」
個人経営のお団子屋さん「早良屋」の前に自転車を止めると、自転車にまたがったまま団子を注文する。この店のカウンターは、直接道に面しているため、このような事も可能だった。駅前に店を構えているということと、値段のやすさで、かなりの売り上げをあげていた。
「あいよ。どれを三箱だい?」
店主である中年の女性が、愛想良く答える。
「まず普通のと、それからみたらしと……。うーん、あとはどれがいいかな?」
人差し指をあごにつけ、ガラスケースの中を端から順にみていく。その表情は仕草とあいまって、非常に中性的に見える。癖のないその顔立ちは、まずハンサムと言ってもいいが、印象に残りづらい顔をしている。
 その真之の視線は、ガラスケースの端から端まで二往復すると、一所で止まる。
「そのあんこのがいいや。その三つね」
「全部で620円だよ。はい、380円のお釣り」
店主から、釣り銭を受け取ると、勢いよく自転車をこぎ出す。
 来た道を引き返しながら、再び懐から時計を出す。時計の針は駅に着いてからさらに、十五分たった事を示していた。
 ほとんど、外には聞こえないほど小さく舌打ちすると、真之はさらに速度を上げる。
……やれやれ、明日の天気も良好かな?……
 いつの間にか、今にも沈みそうな太陽が真正面に来ている。その夕日を直接受けながら、真之はため息混じりに独白した。