リレー小説 土星 第19回



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投稿者: 柏木耕一(旧・日光) @ p14-dn01kuki.saitama.ocn.ne.jp on 97/9/19 20:32:59

 闇色の腕に抱かれた虚空−−宇宙を、一本の銀色の矢が駆け抜けた。それを迎え撃つように、黒い外装のサイヴァーが突進をかける。銀色の外装を有するリンギーを駆るシュウは、巧みに黒いサイヴァーから放たれるレーザーを回避しつつ、反撃のレーザーを撃つ。主砲が装備されていないのは、シュウには予想できていたことだったので、副砲操作を誤ったりはしない。光条は暗闇を切り裂き、劉の駆るサイヴァーに迫る。
「成る程。我が初撃を回避するとは見事。しかし……」
 黒いサイヴァー『ブラックドラゴン』のコクピットで、劉は唇の端を歪めて笑った。
「私の『ブラックドラゴン』にはかなわない」
 『ブラックドラゴン』の機体外装に変化が起きた。一対だった翼がそれぞれ分離し、二対−−四枚の翼が広がる。そしてそれぞれの翼の先端から青白い光が発せられ、その光は膜状に展開した。
「−−ほう、『ギンヌンガの鏡』か!?」
 シュウは口笛を鳴らして呟いた。
 青白く光る膜は、リンギーから放たれたレーザーを吸収すると、一層その輝きを増した。『ブラックドラゴン』は膜を展開したままレーザーを放つ……当然それもまた膜に吸収される。そしてその直後、膜は一点に集束した!
「誰と戦っているのか、思い知るがいい−−『ファイア・ブレス』発射!!」
 劉が叫ぶのと同時に、集束した光は一本の光柱となりリンギーを襲った。シュウは奇跡的な操縦でリンギーを右旋回させそれを回避するが、僅かに右舷が火線をかすめる。
「馬鹿め……この俺に逆らったことを、夜の闇より深く後悔するがいい」
 劉はにやりと笑うと、暗黒を貫く光条をリンギーに向けて放った。

               ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「そんな−−今のは、『ギンヌンガの鏡』!? あのテクノロジーが既に完成されているなんて……!!」
 アリスはただでさえ白い顔をさらに蒼白にして、悲痛な叫びを上げた。僕は彼女がそんなになった理由もわからず、ただ「え? ええ?」と狼狽えることしかできない。黒いサイヴァーの、さっきのバリアみたいなのに関係あるんだろうか?
「ねえアリス……ちゃん。『ギンヌンガの鏡』って何?」
「『ギンヌンガの鏡』−−通常の電磁バリアを遙かに越える防御兵器ですわ。普通電磁バリアというのは、超高周波数の電磁波を展開し、敵兵器−−ミサイルやレーザー等−−の攻撃を無効化するものなんですけど……」
「せんせえしつもーん♪」
「何かしら、マサキ君☆」
 いつの間にか僕は緑のTシャツに吊りズボン、アリスはピンクのTシャツに緑の半ズボンに着替えていた。どちらも黄色の下地に『なぜなにサイヴァー』と青く縫い込まれた帽子をかぶっている。N○Kは手回しが早くていい。
「超高周波数の電磁波で、どーして『れーざー』とか『みさいる』とかが防げるんですかー?」
「ハイ、いい質問ですね☆ じゃあお姉さんが教えちゃおう!
 電磁波というのは書いたとおり“波”ですけど、周波数をとっても高くすることによって、物理的な微振動を引き起こすことができるんです。だから、ミサイルの信管を微振動させて、自機に接触・爆発する前に何もない空間で爆発させてしまうんですね♪」
「へーえ」
「レーザーの場合、光も電磁波と同じ波ですから、超高周波数の電磁波と衝突することによって四散しますね。以上が通常の電磁バリアの原理ですわ☆」
「なーるほどぉ〜!」
 僕は『ぽむ』と手を打った。同時にコクピットに(何故か)備え付けられたスピーカから『ポム』と効果音が入る。
「では次に『ギンヌンガの鏡』について説明しますね♪
 『ギンヌンガの鏡』とは、四つの点から作り出される即席の粒子加速器のことを言います。加速電子Eoを一定方向に回転させ、光の粒子をからめとることができる一方、レーザー等の光線兵器を『鏡』で加速、さらにそこで発生した運動エネルギーを熱エネルギーに変換し『鏡』の中で加速する粒子に付与、発射することで、光線兵器の威力を増幅することができるんです♪
 ようするに、『扇風機に向けて風を起こしても無駄だし、後ろから風を起こせば風は強くなるよね』ってことですわ☆」
「へーえ! わかったよ!! すごいやおねえさん!!」
 僕のこの言葉で、番組の1クールが終了した。
「ところでアリス、これっていつから○HKになったの?」
「そこ! 突っ込まない!」
 アリスのマジツッコミが入った。

               ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「なるほど……『鏡』を作れる程には、科学が発展しているというわけか」
 どこかこの状況を楽しんでいるともとれる口調で、シュウは独白した。操縦桿を大きく右に倒しリンギーを旋回させると、『ブラックドラゴン』の後背を突くように船を動かす。機銃を牽制でばらまくが、全て反ベクトルバリアで防御される。
「運動エネルギーを中和する反ベクトルバリアに、光線兵器を完全に無効化する『ギンヌンガの鏡』を装備している、か。鉄壁のサイヴァーというわけだな」
 リンギーのスピードを上げながら虚空を駆けるシュウ。それを追う素振りすら見せず、『ブラックドラゴン』は悠然と銀色の疾風を睨んで動かない。
「くっくくく……“無却”のないリンギー如きに、この劉黒龍が負けるものか」
 『ブラックドラゴン』の砲塔がリンギーに照準を合わせた。赤光が暗黒の世界に解き放たれ、さながら真紅に輝く蛇の如く、銀色の矢を打ち落とさんと牙を剥く。それを僅かに機体を倒して回避すると、リンギーは『ブラックドラゴン』の船底に張り付いた。
「船底部に『ギンヌンガの鏡』は張れない、とでも考えたか−−浅はかな奴め。私をなめるなよ……船底部レーザー砲門、開け!」
 劉が右手を水平に薙ぐのと同時に、黒いサイヴァーの腹が左右に開き、内部から無数の砲門が姿を現した。
「−−ご丁寧なサイヴァーだ」
 シュウの呟きと同時に、実に五十六を数える砲門が、一斉に火を吹いた。

               ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「シュウさん!」
 僕は思わず身を乗り出して叫んでいた。あんな凄いサイヴァー見たことない……絶対勝てないよ!
「マサキ様、注意がリンギーに向いている今なら、あの船に近づけますわよ」
 アリスの言葉に、一瞬僕は息をのんだ。
「……そうだね……」
「あの人なら大丈夫。私達が行ったところで足手まといなだけですわ」
「うん……」
 そうだ。僕は−−ヨーコを、助けなきゃいけないんだ!
「アリス、あの黒いサイヴァーに接舷して!」
「はいっ!!」
 僕達の乗ったサイヴァー294は、フルスピードで、ヨーコが乗っている(はずの)黒いサイヴァーに向かう!
「……ここでバンクシーンが入って、作画レベルもぐぐっと向上ですわね」
「きみー、アニメーションしたらスクロールが遅くなるがねー」
 僕のツッコミが決まった。

 −−何だか最近お笑いキャラになってないかと思いつつ、僕はブラスタを握りしめた−−。

 〜続く〜