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投稿者:
高山 比呂 @ ppp-y036.peanet.ne.jp on 97/9/16 09:07:06
「カイドクフノウモジタスウ」
「カイドクフノウモジタスウ」
機械的な女の声が鳴り響く、その声の発信源の隣にあるモニタには、羅列した文字が表示されていた。
DECIPHERED>過去と未来の血が走る時
DECIPHERED>新たなる鼓動は生まれ
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DECIPHERED>その光の矛先には
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DECIPHERED>新たなる輝きが満ちるであろう
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DECIPHERED>揺るぎ無い闇を手にしたものは
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DECIPHERED>どこまでも深く
DECIPHERED>どこまでも暖かな
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DECIPHERED>導きを受けるであろう
「こいつでも無理だったか・・・」
モニタの前で、腕組みをして立っていた男が呟いた。
「でもさ、だいぶ文章らしくなったじゃない」
その前のチェアに座っていた女はそう返した。
「確かに、こないだのLFD解読よりはよかったな」
「そりゃそうでしょ、世界最強のJCN使ったんだから」
「こないだの時は“わけわかめちゃん”とかいう表示しかでなかったからな」
「そうそう、あんな前時代的な冗談、腹が立つだけだっていうのよね」
「そうか?俺は結構笑えたぞ」
「・・・じゃあ、あの時下向いて、顔を手で覆って震えてたのって、悔しくて泣いてたわけじゃなかったんだ」
「あんなことで泣くか?しかも“わけわかめちゃん”だぜ」
「まあね・・・」
軽蔑した目で男を見つめる女。
「・・・でもどうしよう?これ完璧に解読しないと研究費用もらえないよ」
「そうだな。しかし、JCN使っても駄目だったんだから、もう打つ手ないだろう」
「そうよね〜。・・・そうだ、この解読された部分だけをつなげて、完璧に解読したってことにしちゃおうか?」
「いくらなんでもそれはまずいだろ」
「まずくたって、それしかないでしょ!!研究費用必要じゃないの?」
「必要だよ。必要だけど、いんちきしてまでは欲しくないよ」
「いんちきしたって、どうせばれないわよ。相手はただの老いぼれじじいよ」
「・・・それもそうだな。別に解読が不完全だからってどうなるってわけじゃないだろうしな」
「そうよ、あのじじいが満足すればそれでいいだけなんだから」
「じゃ、これで送り返すか」
「うん、わたしやっとくよ」
女は“いしの板”と書かれたダンボール箱の中に、さっきまで解読していた石板と、解読された部分だけをつなぎあわせたメモを入れ、ガムテープで封をし、宛先人名(EARTH)ルクサイト=アルペジオ、差出人名(PLUTO)アクセリア=コイジネ、クリル=ジェリヤノと書いたシールを貼りつけて、送信箱に放り込んだ。
シュウはリンギーの操縦席に向かって走っていった。
「ねえ、コキアさん」
「なんだよ」
「もしかして、あのサイヴァーの中にヨーコがいるのかな?」
「ああ、そうかもな」
「だとしたら、もしシュウがあれ打ち落としちゃうとヨーコも死んじゃうんだよね」
「ああ、そういうことになるな」
「ぼ、僕そんなの嫌だよ」
「じゃ、何もせずに黙って見てて、俺達が打ち落とされればそれでいいのか?」
「そ、そうじゃなくて、どうにかして助けらんないかな?」
「そんな虫のいい話あるか。戦場は殺るか殺られるか、ただそれだけなんだ。感情なんて二の次だ。自分が助かるためには犠牲にしなけりゃならないものだってあるんだ」
「で、でも、それでもヨーコを助けたいんだ」
「そんなに助けたいんなら、この船にあるサイヴァーであいつに接触して、中に侵入すればいいだろ」
「じゃあ、コキア一緒に来てよ」
「なに言ってんだよ。俺は行かねえよ、お前ひとりで行け。俺はあんな小娘のために命落とすのなんて嫌だね」
「そんなこと言ったって、僕、サイヴァーの運転なんてできないよ」
「大丈夫だよ。オートパイロットモードにして、目標をあいつにあわせれば、あとは自動追尾するから」
「で、でも僕」
「なんだ、恐ええのか。口ばっかりで、自分が一番かわいいんです〜。ってやつか」
「い、いや、そんなんじゃないよ。僕は本当にヨーコを助けたいんだ」
「それなら早く行けよ。早くしねえとシュウの奴が打ち落としちまうぜ」
「わ、わかったよ。ひとりで行くよ」
マサキはサイヴァーの格納庫へと走り出した。
サイヴァーの格納庫へ向かうマサキの頭の中には、“ヨーコを助ける”そのことしかなかった。月の少女のことも、オトナになろうとしている自分のことも、何も考えられなかった。
「これでよかったんですか?エンペラー」
「上出来じゃ。少々手荒いが、あの少年が“あの力”を発動するには、この方法しかないんじゃ」
「しかし、本当にあいつが“あの力”を使えるんですか?」
「多分使えるんじゃろ。そうでなかったらあの五十嵐が、自分の娘があの少年に近づくのを許すと思うか?」
「確かにそうですけど、あくまで推測でしかないじゃないですか」
「いや、使えるのじゃ。・・・それに使えなかったとしても、あの少年はどうせ足手まといになるだけだったんじゃから、ちょうどいい機会なんじゃよ」
「そうですね」
「ともかく、あの少年が“引き金”を引いた時に全てが分かるのじゃ」
マサキが格納庫に着いた時、すさまじい騒音が船内に響き渡った。
窓からこぼれた、星の輝きにしては明るすぎる光とともに。
(は、早くしなきゃシュウがあのサイヴァーやっつけちゃうよ)
マサキは近くにあった宇宙服を、避難訓練の時に教わった通りに着用した。そして、隣にかかっていた294番と書かれたキーを取り、サイヴァーの元へと向かった。
サイヴァー“294”の元にたどり着いたマサキの目に、サイヴァー同士の間でうずくまってるアリスの姿が映った。
「アリス?」
「マサキ様、あなたも逃げてきたの?」
アリスは立ち上がると、マサキの元へ走っていった。
「え、いや、これからヨーコを助けに行くんだ」
「そうなの。・・・ねえ、私も連れてってくれません?」
「だめだよ、危ないよ、敵のサイヴァーの中に入り込むんだから」
「いいの、早くここから逃げたいの、あの人達と一緒にいたくないの」
「そんなこといっても・・・」
「ねえ、連れてってよ、手伝うから」
「手伝うって、君に何ができるって言うんだ」
「わたし、サイヴァー運転できますわよ」
そう言って、ハンドルを持ったジェスチャーをするアリス。
「本当に?」
「本当よ」
「でも、オートパイロットモードで行くから」
「ブ、ブラスタも使えますのよ」
そう言って、銃を構えたジェスチャーをするアリス。
「でもこれ、ひとつしかないから」
「も〜、とにかく連れてきなさい」
「だめったら、だめ」
「ひどいわ、マサキ様のイジワル〜」
そう言って、泣きだしたアリス。・・・もちろんこれも、ジェスチャーである。
「わかった、わかった連れてくよ、連れてくってば」
「本当?」
そう言って、突然笑顔になるアリス。
「ああ、その代わり、何があってもサイヴァーから絶対出るなよ」
「は〜い」
二人はサイヴァー“294”に乗り込んだ。
「じゃ、マサキ様、私が運転しますわ」
「い、いいよ、オートパイロットモードで」
「だめですよ〜、こんなものじゃ、あのサイヴァーに追いつけませんよ」
「そんなことないだろ」
「そうなんですってば」
アリスは操縦席に座り、マサキから強引にキーを奪ってエンジンを始動させた。
「ほ、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ、仮免試験一度しか落ちませんでしたから」
「仮免?」
「そうです、昨日高速教習やったばかりです」
「じゃ、じゃあ免許持ってないの?」
「は〜い〜」
「“は〜い〜”じゃないよ、“は〜い〜”じゃ」
「でも大丈夫ですわ、このサイヴァーAT車ですから」
「大丈夫なことないだろ、やっぱオートパーロットモードにしとこうよ」
「い〜や、私が運転するの」
アリスは、マサキが操縦切り替えボタンを押す前にサイヴァーを発進させた。
「うあ〜、なにやってんの」
「ようは、あのサイヴァーにぶつかればいいんですね」
「い、いや、ぶつかっちゃだめだよ、ぶつかっちゃ。そばに寄せればいいんだ」
「幅寄せですね」
「そう、それでいいの」
二人を乗せたサイヴァー“294”は発進口から黒い空へと飛び出していった。
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