狂える者の剣 第八話の4『インフィニットの戦い』



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投稿者: 柏木耕一(旧・日光) @ p10-dn01kuki.saitama.ocn.ne.jp on 97/9/15 11:22:22

「おおっ!!」
 レオンが、左手に握った刀を振りかざす。それと共に発生した剣風を、神楽もまた、右手を振るって発生させた拳風で相殺した。
「……僕にもこのぐらいの芸当はできますよ」
「知っている」
 声は背後から聞こえた。驚異的な速度−−圧倒的なまでのスピードで神楽の背後に回り込んだレオンは、神楽の頭目がけて大きく足を振り上げる。完全に虚をつかれた神楽は、それに反応できないかのように思えた。
 しかし−−。
「それを僕は“見て”いますよ」
 神楽は、突如腰を落とし、尻餅をつくようにしゃがみ込んだ。一秒前まで彼の頭があった空間を、金髪の青年が繰り出した蹴りが通り過ぎていく。
「“千里眼”か−−!!」
「正解です」
 後ろ向きのまま、右脇腹から左手を通し、カスールを撃つ。銃声が響き、同時にレオンの腹に小さな風穴が空いた。しかしその背中は、大きな穴を空けている。454マグナムをダムダム弾頭に改造してあったのだろう、衝撃が重要器官だけを打ち砕いていた。
 神楽は余裕の表情で立ち上がると、『もう一発』カスールを撃った。銃弾は正確にレオンの頭部を吹き飛ばし、もとは人間であったその青年を、単なる肉塊へと変化させる。
 レオンだったものが、倒れた。
「……終わりですね」
 神楽は深く溜息をつくと、ルリのもとに歩み寄った。まだ完全に回復しきっていないのか、彼女は僅かに疲労した笑顔を浮かべている。
「手助け、感謝します。あなたがいるから、この銃が撃てる」
 神楽はそう言って、カスールを振り回した。
 ライフル銃はスタビライザで固定して撃つこともできるが、単なるシングルアクションガンのカスールはそうもいかない。自分の腕力だけで反動を抑えることが必要になる。“西部を征服した銃”と呼ばれたこの銃は、同時に“記録だけの銃”とも呼ばれ、まず普通の人間が操れるような代物ではない。それを神楽は、ある方法を以て制御したのだ。
「運動エネルギー操作……作用・反作用の中和でしょう? 昔、よくやりましたよね」
 ルリは弱々しく独白した。
 銃の反動とはつまり、銃を撃つという作用に対する反作用のことだ。であれば理論上、逆方向に指向性を持つ、全く同量の運動エネルギーで中和が可能である。ルリはカスールが生み出す反動の運動エネルギーを瞬時に計算し、それと全く同じ量の、しかし反作用とは逆方向のベクトルを持つ運動エネルギーを発生させ、中和したのである。
「……ゼロウェイ、一体何があったのです? 何故ヴァンプはあんなことを?」
「わかりません……ただ、“遺産”がどうこうって……」
「“遺産”−−? そういえば、“魔王”の“再起動”がどうとか言っていましたね……」
「“遺産”は“遺産”だ。他の何物でもない」
 神楽とルリの表情が凍り付いた。
「俺達は封印の六戦士だ。不老不死……インフィニットなる者達。だからこそあの戦いに勝利できたのだろう?」
「ええ−−そうですね、ヴァンプ……僕達は無限なる者達。死に辿り着くことすらなく、ただ戦い続ける……“戦を推奨する者(バトルプロモーター)”からの受け売りですが」
 神楽はルリを背後に守るように立つ。頭と右肩から先を失い、背中には巨大な風穴を空けたレオンは、しかしどこからか声を出しているようだった。
「ですが、あなたの不老不死は少し異常です。脳まで吹き飛ばされれば、いかなインフィニットとはいえ再生に時間を費やす。ところがあなたはそうやって生きている」
「……」
「以上のことから考えて、論理的帰結はただ一つ。−−ヴァンプ、あなたは……“端末”ですね」
 その言葉が最後まで紡がれた瞬間−−レオンの体がのけぞり、腹が裂けた。そして肉体を破り現れたのは……。
「……ヘルダイバー。失敗作の集まり……出来損ない。言葉は何でもいい。つまり彼らは失敗し、私達は成功した。
 その通り。“魔王”の端末が、私だ。私は“魔王”の“遺産”を管理する“精霊”の役を、武藤美樹から与えられた。貴様等に協力したのは、ラス=テェロを封印するため、それだけのために過ぎない」
 後頭部の妙に長い、しかし猿のような外観を有したその生物は、レオンの声でそう語った。
「ラス=テェロの回収に失敗した“魔王”の残した“遺産”の管理……良平様が言ってた、データローバーとしての“魔王”の“遺産”……一体何なんですか?」
 ルリに一瞥を向けると、レオンはにいっと唇の端をつり上げた。
「全ての真実だ。“魔王”、“武藤美樹”、“対魔王”システム……それらは一体何なのか……全ての真実だ」

 続く