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投稿者:
本命カゲ @ oppp115.harenet.or.jp on 97/9/14 08:25:27
なんとすばらしいことに、第十八回の作者が決定いたしました。
彼のすばらしい物語で、再び「土星」にはずみがつくことを祈って、
今日は第七回と第八回を紹介します。
作者の高山比呂さんは、マサキ君になったつもりでがんばって下さいね。
第七回 (母へ・・・)
いつもの夢を見ていた。母さんの、夢だ。 母さんはシルエットで、顔は見えない。
僕は赤ん坊で、母さんに近づこうとよちよち歩く。
しかし母さんの手をつかもうとした瞬間、決まって目が覚めるのだ。
僕が幼い頃に母さんは、心臓の発作で死んでしまったそうだ。顔も覚えていない。
だが、そんなに悲しくはない。何しろ、想い出が何一つないのだ。
家に遺影が飾ってあるが(注・シャレじゃねーぞ)、今いちピンと来ない。
気が付いたら、父親と二人で暮らしていた。
そのせいか幼なじみのヨーコがよく世話をやきに来て、ちょっと恥ずかしい。
ヨーコは決して大人しい女の子ではないが、なぜか僕の成績の事までうるさく言うので、苦手だ・・・。
母さんの夢で目覚めた時はなぜか疲れるので、その日、僕はいつもの空き地でボーっとしていた。
僕の好きな場所だ。 もっとも、今年の秋にはここにも第弐避難所ができるそうだが・・・。
目の前を若い男女が通り過ぎた。どうやら恋人同士らしい。
僕は無意識のうちに、一年くらい前に会った女の子の事を思い出していた。
確か、月から観光に来たと言っていた。今考えると、
こんな星のどこを観光するというのか疑問ではあるが、それはどうでもいい。
最近、彼女の事ばかり考える。なんだか忘れられない。
「ちょっと、何ボーっとしてるのよ」ヨーコが僕に小声で怒った。
・・・そうだった。僕はヨーコにゼロドームまで着いてきたのだった。
いや本当はついて来させられたのだが・・・。
そして今、船の裏出入り口で、怪しい影を見たところだ。
「なんだ?・・・あれ」
「知らないわよ・・・早く船に入りましょ」ヨーコがせかした。
電気バリア・・・ヨーコが言うには高圧電流帯らしい・・・を、
赤カードで通り抜け、僕たちは船へと入る。
大型宇宙船リンギーの中は就航式の割に、警備が少なかった。
「ねぇ・・・ヨーコのお父さんの所からカード持ち出したりして、怒られないの?」
「大丈夫よ、どうせ就航式に招待する関係者の為の一時的なIDなんだから」
ヨーコの父親は土星研究所で働いている。カードはそこからいくつか拝借した物らしい。
「私・・・一度でいいから巨大宇宙戦艦に乗ってみたかったのよねぇ」
ヨーコがつぶやいた。
「えぇっ?リンギーは貨物船でしょ?」
「バカねぇ、多目的大型宇宙船なんて、建前に決まってるでしょ?一年前に戦争は始まってるようなもんなんだから・・・」
「では、問い三番を・・・メイファ君、やってみたまえ」
「はい。1994年のシューメーカーレビー第九彗星の木星衝突です」
「よろしい。これは略称SL9とも呼ばれ、
今から505年前に実際に起こった事だ。
この時、地球にはまだ人類が数多く存在していたが、その120年後に突如起こった大規模な木星の質量消失を
当時地球の科学ではまだ予測できなかったと考えられている。
事実上木星がなくなって、地球への隕石の危険は深刻化し、
結局それから25年後、巨大質量の氷隕石の衝突により地球は水没、陸地のほとんどを失っててしまった。
我々は、わずかに月に移住していた人々の子孫、という訳だな。
・・・では、次回は木星について確認テストを行う」
・・・起立・・・礼・・・
「ねぇねぇメイファ、テストだって。どうしよう〜」
「大丈夫よ、あの先生やる気無いもの。
ガリレオ衛星くらい覚えておけば、多分平気よ」
「何、ソレ?」
「木星16衛星のうち、大昔ガリレオって人が発見した4つの大きな衛星。
イオ、エウロパ、ガリメデ、カリストの4つかな・・・」
「さっすがメイファ。助かるぅ〜」
「あはは、こんなのどうせ7年生で習うんだよ」
教室の窓から地球が見える。かつて80億を超す人類が住んでいた青い星。
地表の99.89%が水没していて、海底では常に大きな地震が絶えないためにコロニーも造れない死の星。人類のいない星。
ミレニアム(月の正倉院のようなもの)で発見された、
光ディスクという古い記録媒体によると、氷隕石が衝突した時、
地球各地では大規模な戦争がおこっていたらしい。
それが本当なら、その戦争はなんなのだろう。
恐ろしいほど無意味な気がしてたまらない。
・・・そして今、私たちも同じ事をしようとしている。
月と、200年程前に月からガスの固まり・土星へ移住した人々。
一年前、土星で開発された超方程式を独占しようとする土星は、
孤立して貿易を持たない星になった。
ああ、バカみたいだわ・・・土星にコロニーを造るほどの科学力があっても、
どうせ隕石が来たら何もかもおしまいなのに・・・。
どうして究極破壊兵器を隕石の迎撃に使わないのかしら・・・。
戦争、やっぱり始まるのかな・・・。
一年前に父さまの仕事でついて行った土星はきれいだったな・・・。
星に少しでも色があるなんて素敵・・・。
そう言えば、土星で変わった男の子に会ったっけ。
「どこかで会った事無いかな?」なんて突然聞いてきて。
顔、ちょっと私に似てた・・・。
「ヨーコ・・・こ、これはサイヴァーじゃないか・・・!」
「そうよ、小型船くらい何隻も積んでるわよ。巨大戦艦なんだから」
僕たちはいつの間にかサイヴァーの格納庫に迷い込んでいた。 ふとまた、月の女の子の顔を思いだしてハッとした。そしてある事に気付いた。
母さん・・・死んだ母さんにそっくりなのだ。
あらためて思い出してみればみる程、酷似している。勿論、似ているからといって何がどうなる訳でもない。これじゃ、なんかバカみたいじゃないか僕は。
「母さん・・・」
しかし、僕は無意識のうちに独り言をつぶやいていた。
「あんた、何言ってるの?」・・・呆れるヨーコ。だがさして気にもせずに、
「さあ、早く次の部屋に行きましょう。もっと冒険したいわ!」
なんだかはりきっている。ヨーコの好奇心にはついていけないな・・・(と言いつつ、僕はついてい行くしかないのだが)。
「ねぇヨーコ、あまりウロウロしてると、リンギーが出港しちゃうよ・・・?」
いいかげん不安になってきた僕が、ヨーコに言った。
サイヴァーに乗りたい気持ちはあるが、乗ったところで何ができると言うのだ。
僕は自分の、若者らしからぬ、ある種、諦念にも似た考えが普段からイヤだった。
これは他の事でもそうなのだ。
しかし、何か前向きな行動に移す事の方がもっとツライに決まっている。現実的に考えて何が悪いと言うのだ。
「現実的?・・・君のは違うわ。逃避願望が優先されてるもの」
頭の中で声がする。
母さんの声だ。母さんの声?なぜ母さんの声だと解るんだ!?ほとんど聞いた事も無いのにっ。 お、落ち着け・・・僕はどうかしてるぞ。月の女の子の事は忘れなきゃ・・・。
「マサキ・・・あんた私を怒らせたいの・・・?」突っ立っている僕を見てヨーコが叫んだ。 イ、イカン。ついボーっとしすぎた。
「ヨ、ヨーコ、そろそろ帰らなきゃ。ホントにリンギーが出港・・・」
・・・と、言いかけたその時、
「リンギー?ちゃんと正式名称で呼んで欲しいな」
格納庫に声が響いた。落ち着いた、男の人の声だ。
「誰っ!?」とっさにヨーコが声を上げる。
「対惑星宇宙空母・・・リングE。」 サイヴァーの後ろから、黒い服に身を包んだ一人の男性が現れた。年は20代後半と言ったところだろうか。男の僕から見ても、けっこうカッコイイ。
「EはEraのE・・・新たなる時代の幕開けを告げる区切りの事象さ。
土星の未来ってワケだ。」男性は、歩み寄りながら続けた。
「あ、あなた誰!?
・・・言っとくけど、私たちちゃんとID持ってるですからね!」ヨーコが牽制する。
「そんな暫定版カードで何ができるってんだ。子供がこんな所にいるハズないだろう。それより君たち、早くここから出るんだ。」
男性は少し真顔で言った。
−−−ガクンッ!!−−−
突然、部屋全体が大きく揺れた。
「きゃあっ!」ヨーコがバランスを崩し、倒れる。
「離陸だと・・・!?くそ、軍の連中め、無茶しやがる」男性がヨーコを起こしながら言った。
「そんな、今回は動作テストじゃなかったの!?」あせるヨーコ。
「ケイジでの環境動作テストは、もう済んでるんだ!やつら、予定を一つ省く気らしい。・・・もしかしてこのまま出撃する気なのか・・・?」男性は苦笑いして言った。
僕は、揺れるサイヴァー格納庫の中でただ、これからどうなってしまうんだろう・・・とひたすら思っていた・・・。
第八回 (サブタイトル不明)by チワワ大王さん
「五十嵐君、どうだねイオとの接触はうまくいきそうか。まだ早いのではないのか。」
「ああ、これはザビア博士。お元気そうで。博士の研究は順調ですか。博士の頭脳を用いれば、例のものも早く完成しそうですね。
私のほうは大丈夫です。木星最大衛星イオ、あの星の奴等を驚愕させるには十分ですよ、この空母リングEがあれば。
すぐにあの星を落としてみせますよ。そうなれば、木星中立軍もこちらにつくしかないでしょう。
全てはこの1週間にかかっています。」
「できる限り、話だけで済めばいいがな。無駄な労力は避けたいものだ。
ところで、君の娘さんは元気にしているのか?確か、ヨーコちゃんだったな。」
「うちのヨーコですか、いやー相変わらず元気ですよ。もう博士とは3年も会っていないんですね。
来年には、上の学校に進み、ゆくゆくは技術開発部としてここに勤めさせたいと思っていますが、なにせ遊びに夢中でして。今、家にいると思います。
今回のことはヨーコにはもちろん、妻にも内緒にしています。開発会議のため、出張するとだけ言って来ました。」
「そうか。今回のイオとの接触が終わったら、君の娘さんにまた会わせてくれ。」
「ええ、失礼の無いよう、言っておきます。」
第九回へ続く
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