狂える者の剣 第七話の2『邂逅・再生する記憶』



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投稿者: 柏木耕一(旧・日光) @ p11-dn01kuki.saitama.ocn.ne.jp on 97/8/30 08:53:50

「ラス=テェロが人間に抑えきれないようだった場合を考えて、あらゆるシステム・ネットからラス=テェロをデリートするプログラムが“魔王”ディス・Pだった。だからこそ彼にはディス・プログラマー……〔解除者〕という名が与えられたのだから」
 良平の指がキーボードを叩き続ける。ディスプレイは次第にその表示する文字群を変えていく。
「そして“あいつ”の不安は的中した。ラス=テェロは暴走を引き起こした。そして“あいつ”は“魔王”プログラムを起動した……いや、この言い方は正しくないな。“魔王”プログラムは、ラス=テェロが暴走しようとしまいと、必ず発動するようになっていた。実験が成功すれば、他の人間をわざわざ不老不死にしてやる必要性はない。ラス=テェロを回収する……被験体は多い方がいいという理由だけで、“あいつ”は全世界にラス=テェロをばらまいたのさ。
 実験が失敗すれば、それこそ話にならない被害が出る。それを恐れたからこそ、“あいつ”は“魔王”プログラムを作ったんだからな−−無限増殖型の無差別デリーターを。
 しかし“あいつ”は大きなミスを犯した。誰もが実験を望んでいたわけじゃないってことを見逃していた。だからこそ“あいつ”の“魔王”プログラムは、まともに起動しなかった」
「……ちょっと待ってよ。“魔王”プログラムはきちんと起動したんじゃないの?」
「いいや。デリーターとしてのプロバティを変更され、単なるデータローバーと化した。本当の意味での“魔王”は、“魔王”本体でなく、その動きを封印した−−“対魔王”プログラムだ」
 ディスプレイに光が灯った。ドットが表示され、次第にそれは人間の−−女性の形を為していく。
「……違うか? “魔王の母”武藤美樹」
「ご名答。あなた探偵の素質あるわね」
 ディスプレイの女性は、美しいその顔に、歪んだアルカイック・スマイルを浮かべてそう言った。

 続く