狂える者の剣 第七話の1『邂逅』



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投稿者: 柏木耕一(旧・日光) @ p22-dn01kuki.saitama.ocn.ne.jp on 97/8/24 20:34:02

 どうして自分はここにいるのだろう。彼女は何度となくそう思ったことがある。
 自分の住んでいた小さなアパートは、宿主達に壊され、蹂躙された。そのとき彼女は、幼いながらも単身銃をとり、戦ったのだ。屋上まで追い詰められても、諦めたくはなかった。諦めたら死んでしまうのだ。死ぬのだけは嫌だった。
 そこで彼女は、初めて彼に出会ったのだ。
 彼はたった一人で宿主達を撃退し、彼女を助けた。親をなくした彼女は、彼について行くと言い張った。
 彼はそれを止めなかった。だから彼女はそこにいる。
 一緒にいるために、意地を張ったこともある。教育ソフトの力を借りたこともあったし、知識チップを頭に埋め込んだこともあった。
到底力では彼にかなうはずがないのだから、頭脳をカバーしようとしたのだ。
 彼はそれをどうとも言わなかったし、別段推奨も止めもしなかった。いつもそうだった……彼は、彼女に対して無関心だったのだ。
 だったら……。
 だったら何故自分は、そこにいる?

                ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「インフィニット計画……つまりそれは、俺達を無限にする計画だった」
 魔王に縁のあるシステムステーション内部で、良平は淡々と、美月とルリに説明をしていた。
「ラス=テェロに寄生された人間は、皆例外なく宿主と化し、人々を襲った……とあるが、これは嘘だ。現に俺やルリ、他の“封印の戦士”達は体内にラス=テェロを飼っている」
「……嘘!?」
「事実だ。俺達の力は、半分以上ラス=テェロに依存している」
 キーボードの上を、良平の指が軽やかに舞う。ディスプレイには様々な数式が現れ、そして消えていった。
「しかしそれには理由がある。俺達は“免疫”を持っていたんだ。俺達は皆“あいつ”の手で一度、ラス=テェロを圧縮保存したデータを頭に植え付けられている。……ラス=テェロはな、巨大すぎるんだ。普通の人間の頭では許容しきれない。ところが極限まで圧縮されたデータを持つ俺達は、その力を行使することができる。それだけのことだ」
「だったら結局、そのラス=テェロってぇのは何なワケ?」
「プログレス・プログラム……有機体の進化を促進するプログラムだ。それぞれの有機体が普段は使うことのできない、いわゆる潜在能力を自在に扱うことができるようになる……はずだった。そして俺達は、無限になるはずだったんだ」
「その、無限って何のこと?」
「言葉通りだ。不老不死。活性酸素の発生を完全に抑え、またあらゆる病傷害に対し絶対的な治癒力を持たせる。これこそ……彼女の考えたインフィニット計画だ。そしてそれと同時に彼女は、計画が失敗した場合のことを考え、ある対抗策を立てた。
 それが“魔王”計画だ」
 良平が言葉を終えると同時に、ディスプレイに“パスワード認識”の文字が表示された。
「魔王は……全ての精算をつけるためのプログラムだった」

 続く