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日光と遼平 @ kuki5DU19.stm.mesh.ad.jp on 97/8/07 13:08:16
それは、ある意味人であった。たとえどんなに崩れ、腐っていようと、もとが人であることに変わりはない−−だとすればそれは、間違いなく人であった。
身の丈6mほどの巨人の死体−−まあ、実際巨人がいたとして−−それはそういったものだった。宿主が自然死すると、こんなふうに死体が残ることはない……急速に風化するか、融解するかのどちらかだ。だとすればこれは、宿主ではない、真の巨人であるということになる。
「……遺伝子工学の罪悪ね、これは」
自らもまた生物学者・物理学者であり医学者である美月は、システムステーションの前に陣取った巨人を見て呟いた。
「ヘルダイバー計画−−最強のソルジャーの開発。その中の一つ……これは−−始祖人(アダム)と呼ばれるタイプのヤツね」
「……なるほどな。しかし何故そんなやつが、こんなところで死んでいる?」
「知らないわよ。だいたい、私の生まれた頃には、ヘルダイバー計画はもうとっくに打ち切られてたんだから」
言って、巨人の躯を見上げる。
「静かに眠れる場所が、まだあったのよ……戦場じゃなくてね」
普段の彼女からは(失礼な話だが)想像できないような、優しい声音。巨人の腐りかけた耳には、それすら届かないわけだが。
「ま、何にしろ、死んでいるんなら話は早い。とっとと片づけて中に入るぞ」
「そういうわけにもいかないのが、世の常というやつでね」
「!?」
声は、どこからか聞こえてきた−−当たり前のことだが、声は主がいなければ発生しない。
(どこだ−−!?)
良平は検索ソフトを起動し、周囲の情報をディテクトする。
「無駄だよ、“電子の騎士”……君の検索ソフトは生命反応を調べるものだ−−それでは僕は探せない」
「良平様、生命反応、周囲1Kmにわたって、人間のものは私達3人の分しかありませぇん!」
良平にも、それはわかっている−−しかし、有り得ないのだ、そんなことは。今、謎の人物が三人に語りかけているなどという事態は、起きてはならないのである。
「大丈夫だよ−−僕は資質を調べるに過ぎない。資格の有無を確認するのは“精霊”がやる……魔王システムの守護者、世界の守り手が」
「良平っ! 上!」
美月が叫ぶのとほとんど同時に、良平は本能的に後ろに跳躍していた。そしてそれの後を追うように、先刻彼がいた場所を、巨大な腕が殴り潰した。
「……はっっ!」
ルリが投げつけた光の槍は、“そいつ”にぶつかると、小規模な爆発を引き起こした。しかし“そいつ”は堪えた素振りも見せず、ゆっくり、ゆっくりと、その瞳を開ける−−
「……ヘルダイバー……生き残りがいたの……!?」
美月の絶望的な呟きは、巨人の体に吸い込まれるように消えていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
我はディス・P……魔王である……。
僕は……誰だ? 魔王システム……。
ミスなど犯すはずがない……あの方は気が違えていたのか?
違う……僕は操られているんだ! どちらが支配者だ……ど
ちらが創造者だ!? 僕はただ言われたことを言われたとおりに やるだけのプログラムのはずだ……
進化を遂げる……僕の体が、変質していく……
ラス=テェロ……僕の息吹……魔王の血肉。プログラムされた
のか……こんなものが!!!!! 人を殺すという、たった一つの目的 にしか使用することのできない、こんなものが……!
始祖よ……あなたは過ちを犯した。私の進化は、決して……
消滅させよ・倒せ・追放せよ……そして……
世界を守れ
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