[ このメッセージへの返事 ]
[ 返事を書く ]
[ home.html ]
投稿者:
日光と遼平 @ kuki5DU19.stm.mesh.ad.jp on 97/8/07 12:58:04
僕はどうして剣を振るうのだろう。
僕の剣はどうして人を殺すのだろう。
わからない……全てが謎だらけだった。わからない……わからない! 僕は誰だ……何故剣を振るう……何故人を殺す?
僕は人ではない。鏡で見た僕の姿は……到底、人間だと強がる気概すら踏み潰すほどに醜悪だった……。
苔が……食い尽くす苔が、僕の記憶を、姿を、能力すら……奪っていったのだ。この身体に生えた、真っ赤な−血色の苔が!
……僕の命が尽きるのは……いつだ? 生命の地獄から解放されるのは、いつだ? 誰かを殺さなければ生きていけない、誰を食い物にして生きている……耐えられるものか!! 僕は人間だ……正気を失いかけてはいるが、それでも人間なんだ! 誰かを、自らの衝動の赴くまま傷つけ、犯し、殺し、食うなど……我慢できるはずがない! 僕は死ぬべきなのだ……でも、死ねないのだ。
『あいつ』が……僕を駆り立てる。『あいつ』は僕を肯定するんだ……今のこの、間違いだらけの僕を、否定しないんだ!
誰かがあいつを否定してくれない限り、僕はいつまでも剣を振るい続ける……殺し続ける。
これを読んだ全ての勇者達に送る……。もし君達のいる“そこ”が傷つけられて、崩れていたら……僕を肯定した『あいつ』を呪って……殺してください。そのために全てを残します……。『あいつ』は僕を否定しようとして、逆に僕を肯定してしまった……。
勇者よ。願わくば、君が真に強者たらんことを……。
p.s 遺産は、“精霊”が管理しています。資格者を迎えるようプログラムしてあるので、心配いりません。全ては遺産を手に入れてからです……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「古代魔王の残したメッセージ・ファイルぅ?」
古びたカウンターの上で器用にグラスを回し、女はいかにも馬鹿にした風に言った。いつもの場所、いつもの店……全ては変わらず、安定している……。
「ああ。代々木区役所データベースのBB(ブラック・ボックス)に保存してあった。……信じるも信じないも勝手だがね」
「信じるわよ、あんたの情報だもんね……“電子の騎士”秋山良平さん。……でもね、魔王って、あの魔王でしょう?」
女……俺の相棒を名乗って憚らない、ポニーテールにでかい目の、ガキみたいな女だ……師走美月は、途端に声を潜めた。
「ああ。……過去、東京中のデータを盗みまくり、成層圏内のコロニーにしこたま溜め込んだ、あの“魔王”ディス・Pだ。そいつが残したファイルだ……何か、鳥の匂いがしないか?」
「するわよ、そりゃあ……きらきら輝く“金ヅル”って名前の鳥の匂いがね。……いいじゃない、良平。あたしだってね、伊達に十二年あなたの相棒やってきたわけじゃないんだから。魔王でも何でも、死んでしまえば単に宝の提供者よ」
「いい返事だ。わかってきたな」
「そりゃまあ、ね。……で、そのメッセージ・ファイルがどうしたっての? 企業に売れそうな情報でも入ってたの?」
「それより凄いぜ。なんせ、魔王の遺産の隠し場所だ」
俺の言葉に、美月は表面上何の変化も見せなかった。
しかし、俺にはわかる。
この女は、やる気になったのだ。俺と組んで、また仕事をしたいのだ……あわよくば、俺を出し抜いて、“電子の騎士”の名を手に入れようとしているのかもしれないが。
ここは東京・秋葉原。この世界に存在するあらゆる全てが揃い、その全てが虚ろな、幻影の都市……。
|