「フルハウス」―接触編―(NHK教育のとは無関係)



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投稿者: 高山 比呂 @ um1-40.tokyo.infoPepper.or.jp on 97/7/30 07:23:37

In Reply to: 「メッセージ文コンクール」(前ページのつづき)

posted by 高山 比呂 @ um1-40.tokyo.infoPepper.or.jp on 97/7/30 07:17:59

「あーん、漏れちゃう」
 早足でトイレへ向かう女。だがしかし向かった先には行列ができる店で紹介されてもおかしくないほど長い人の河ができていた。
「どうしよう、こんなに待てないよ。…こうなったら」
 女はがに股で男子トイレに向かっていった。おそらく自分は女ではなくおかまなんです。という風に周りの人に思わせるための作戦であろう。
「誰もいませんように」
 そう神に祈りながら男子トイレに入った。
 紙はあったが、神はいなかった。
 手を洗っている男がいたのだ。二人は鏡を通して目を合わせた。女は目をそらして個室に駆け込んだ。男は自分の目を疑っていた。
「あのー、ここにはよく来られるんですか?」
 男は場所もわきまえずに女にそう質問した。
「何この男気持ち悪い。…もしかして音とか聞かれてるんじゃないかしら」
 女はレバーを倒して水を流した。
「僕はここ初めてなんですよ。でもあなたが来るのなら毎日でも…いや、ここに住んじゃおうかな」
 女は本格的に恐怖を感じてきた。もしかして覗かれているのではないか。そんな不安が頭によぎり、ドアの壁の上にできてる空間を見た。男の顔はなかった。下にできた空間も見た。男の顔はなかった。
「あれ、どうして黙っているの?…あ、そうか名前も知らないのに話もないよね。僕は日高 翔。えー年齢は25で、えー勤務先はふすま商事です。えー趣味は写真、パソコン、ゲームなどけっこう多」
「なんか自己紹介始めちゃってるよ。どうしよう恐くて外出れない」
「趣味で、えー好きな音楽はC&A(CHAGE&ASKAをファンの方はこう呼ぶ。一般的にはチャゲあすと呼ばれている)です。まあ僕の自己紹介はこのくらいにしておいて」
「私に名前とか聞かないでよ、お願いだから」
「あなたのお名前は?」
(どうしよ、どうしよ、ほんとに聞いてきた。答えたくないよー。…でも答えないとなんか恐そうだし、……ごめん尚子あんたの名前借りんね)
「あ、細井尚子です」
「尚子さんですかいい名前ですね。で、年齢は?」
(この男何お見合い始めてんの、こういう事は両家そろってからしようよ。で、でも答えないと)
「に、26です」
「あ、そうですか。えーじゃあ御趣」
 ピー、ピー、ピー
「あ、すいませんポケベル鳴っちゃったんで、ちょっと待っててください今、会社に連絡してきますから」
 男はトイレから駆け足で出ていった。
「あー助かった。よかったー」
 ドアを開けて周りを確認する女。だが、何処にもあの男はいなかった。女は男がいたところの隣のものを使い、手を洗った。そして駆け足でトイレを出た。がに股にすることも忘れ、一気にこの建物から出た。
「でも尚子の名前使ったのはまずかったかな」
 トイレに戻り女がいなくなったことに気づく男。
「尚子さん、はずかしがりやさんなんだ。…また、逢えるかな?」
―この後ふたりはまた逢えたと思います?…僕は知ってます―