永和伝ダーザイン(仮)―始動編―



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投稿者: 高山 比呂 @ um1-45.tokyo.infoPepper.or.jp on 97/7/29 10:55:26

In Reply to: 「メッセージ文コンクール」

posted by 高山 比呂 @ um1-12.tokyo.infoPepper.or.jp on 97/7/29 07:59:16

僕は逃げた 助手席に彼女を置いたまま
僕は逃げた 彼女を愛していたがそれ以上に自分を愛していたから
彼女の事を考えてるほどの余裕はなかった。ただその場から離れること―逃げる―ことのみ考えていたから。
それからすぐに背中で熱風を感じた。すさまじい騒音とともに。
それでも振り返らなかった。
それでも彼女を心配する気持ちはなかった。
ただ必死に逃げるだけだった。
―どこまで逃げてもしょうがないんじゃないか―
そんな考えが頭をよぎった。余裕ができたのか?いや、そうではない。それはもうあきらめの気持ちに近いものである。そういう考えに襲われた時はどこかに希望を託したくなる。この男の場合も例外ではなかった。
―誰か平和の運び手はいないのか?誰でもいいから僕を助けてくれよ。神様救いの手を―
そう願った瞬間、熱風と騒音に押し出されて男の体は宙を舞っていた。
―これでもう終わりか―
男は瞬間的にそう感じた。
(しかし、これは始まりでしかなかった)
男は巨大なコンボイの横に不器用に着地した。
不意の出来事に呆然としていた男の眼には荒廃した都市が広がっていた。
―僕は孤独だ―
しかしまだ騒音は続いている。
―このまま死ぬのか―
そう思いながら眼をコンボイの荷台の方に向けた。
そこには熱風で半分翻ったホローの下に見え隠れする巨大な鉄の手があった。
「…ロボット」
直感的に男はそう思った。
これこそが男の願いであった平和の運び手だろうと。
男はパイロットの安否を見ようとコンボイの運転席に向かった。
そう―誰か………僕を………―と願っていた男は自分で何とかしようとは思わなかったのだ。いや、思えなかったのだ。
運転席はひどい有様だった。熱風によってその厚みは冷蔵庫ほどになっており、一目見ただけで生存者がいないとわかるものであった。
それでも男は上半身を割れたフロントガラスから滑り込ませ、中の様子を確認しようとした。
そこには真っ赤な肉片が2つ転がっていた。
―パイロットがいる―
そう信じていた、信じるしかなかった男にとってはこの光景は一番見たくなかったものであった。
「誰かー」
そう叫んでも男は孤独だ。返答はない
自分で操縦しよう。そんな気にはまったくならなかったが、
―とりあえず助かるためには装甲の厚そうなこのロボットの中しかない―
そう思った男はホローの下をはいつくばってロボットの入り口を探した。
ロボットの胸にあたるであろう部分に何かレバーがあった。
「これか」
神にすがる気持ちでここがドアであることを祈った。
開いた。
男はすぐに半開きのドアの中へ体を押しこんで、ドアを閉めた。
そこはレバーとペダルのついたコックピットであった。
この場所は男にとって未知な空間でも何でもなかった。昔、男が遊び道具としていじっていた父親のフォークリフトのそれと同じであったからだ。
けれども男は操縦する気にはならなかった。
ただそこに座って置き去りにした彼女の事を悔やむほかできなかった。静寂が男にそんな余裕を与えた。
「…真理」
そう呟きながら彼女との最後のドライブを思い出していた。
その時突然警告音が鳴り響き、薄暗かったこの空間のすべての壁に外の映像が映し出された。
そこにはホローが逃げるように飛び去っていくのと、黒く巨大な人影が、熱風と騒音を落としていた飛行機から舞い下りてくる映像が映されていた。
黒い巨体はロボットの目の前に立つとその巨体にフィットした巨大な銃をこちらに向けた。
―死にたくない―
男は反射的にレバーを倒しペダルを踏んだ。
ロボットは立ち上がりながら腕を飛ばした。いや、腕がひきちぎれたといった方が正確だろう。
その腕は黒い巨体に直撃し、熱風と騒音が起こった。
その間にロボットは、ノコギリクワガタがよく取れるからという理由で男とその友人がのこぎり山と呼んでいた森に逃げ込んだ。
男はロボットを降りて森の中へと走っていった。