「土星」第16回 「凶悪な装備」(後編)



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投稿者: ITASAN @ kobekeeper.mhi.co.jp on 97/6/17 21:25:43

In Reply to: 「土星」第16回 まえがき

posted by ITASAN @ kobekeeper.mhi.co.jp on 97/6/17 21:22:01

「土星」 第16回 「凶悪な装備」(後編)


マサキは,なるべくそちらの方を見ないようにして,アリスの
手をとり,通路へ出た.アリスは恐いのか,マサキにぴったり
と身を寄せてくる.彼女の震えが伝わる.励ますように手を握
り返したマサキだが,その震えは自分自身のものでもあった.

(ヨーコ..)

なんのことはない,こんなときに浮かぶ名前は,両親でもなく
友人でもなく,いつも憎まれ口を叩いている,幼なじみであっ
た.

通路は,しんと静まりかえって人の気配がなくなっていた.

「一般区画を閉鎖し,乗務員は隔離したか..」

コキアの呟きが聞こえる.マサキはふと気が付いて,アリスに
利き腕と反対側に来るように言った.

やがて,3人はエレベータホールへ出た.6台のエレベータが
左右の壁に3台づつ設置されている.

「コキアさん,まさかこれに乗るんじゃ?」

「ばか言え,壁の船内マップを利用するだけだ.運良くシュウ
 が,あのお嬢ちゃんにビーコンを付けといてくれたんでな」

コキアはなにやら,ベルトのポーチから取り出すと,壁の端末
に向かった.

「いたたた」

我にかえると,腕が痛い.マサキはそこに自分の腕に食い込ん
だ,少女の爪を見つけた.

「アリス..ちゃん,ちょっと,痛いんだけど」

「えっ?,ご..ごめんなさい.あっ,血が出てしまって」

アリスはパッと手を離した後,とっさにその傷口に唇を近づけ
た.

「えっ?!」

マサキは少女が何をしてるのか,分からず躊躇した.そして,
その意味を悟ると,全身の血が顔に上るのを感じた..その時,

<ポーン>

エレベータの到着音がホールに響いた.

「マサキィー!!」

コキアが叫ぶ.端末から端子を引き抜くため,動作が遅れる.
マサキはアリスを,観葉植物の後ろに突き飛ばすと,ブラスタ
を構えた.見ると向かい合った2箇所のケージのランプが点滅
している.コキアはまだ戦闘態勢ではない.

(どっちだ,どっちが先だ!)

迷いが隙を生んだ.先に開いたケージは空だったのだ.銃身を
回すのがもどかしい.目の隅には,既に開いたもうひとつのケ
ージが映っている.

そして,振り返ったその先には,帝国兵に囲まれたヨーコがい
た.マサキは勢いで引き金を引こうとする,自分の指先を他人
のもののように見つめた.

瞬間,ゲームの中で撃たれる一般市民,対戦相手の勝ち誇った
メッセージが駆け巡る.

「うわぁ〜!!!」

真っ白な空間が,弾けた.      

                    第17回につづく